ラグビーPRESSBACK NUMBER
高校ラグビーの、W杯とは違う味わい。
王者・桐蔭の「個が際立たない」強さ。
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byKyodo News
posted2020/01/10 19:00
初優勝を狙う御所実業を退けた桐蔭学園。松島幸太朗を擁した2010年度両校優勝以来の全国優勝を果たした。
個が際立たない桐蔭ラグビー。
準決勝の桐蔭学園を凝視して「個が際立たない」と感じた。悪口ではない。だれかが際立つ必要もなく、そこに登場する選手のすべてが淡々と、なお力強く務めを果たす。JSPORTSの放送解説をしながら、劣勢の東福岡高校の選手の名のほうをむしろ繰り返した。桐蔭はひたすら「桐蔭というラグビー」を貫くのだった。
ちょうど10年前、花園で準優勝直後の桐蔭学園の藤原秀之監督に技術誌掲載のためのインタビューをした。絶えぬ学習と進歩を生きる指導者にすれば、ただの昔話だろうが、今回の栄冠へつながる慧眼は随所に示されていた。いわく「1対1からは逃げられない」。いわく「ボール・スキルの練習にジャッジ(判断)の要素を組み合わせる」。スポーツの現場の常套句である「芯」や「幹」を表層でなく文字通りに鍛えながら、個の判断力、チームのラグビー理解を深める。
相手はどこで上回ればよいのか。
さすがに決勝では、伊藤のランに判断、青木のふてぶてしいほどの突破やつなぎはなるほど際立つのだが、それでも、なにかチームが特別な攻守を披露するわけでなく、身体の強靭、ひとつずつの判断の正確、細部に行き届くスキルで戦い抜く。端的に述べると、球を失わずに球を奪う。
「1番から15番までのポジションが流動的にボールを持つべき」。そうも話した。桐蔭学園の選手はポジションの専門性を超えて、みな、フットボーラーである。芯と幹が揺るがず、偏りがないので、相手はどこで上回ればよいのかがわからなくなってくる。
おもに関東圏の才能のある中学生が続々と進路に選ぶ。層は分厚い。上等の素質を有する選手たちの能力に頼らず、ラグビー競技の真ん中のところからコーチング、判断力を育み、また判断の余地を残す。さあ、御所実業、ターンオーバーか。いや、こらえる。すかさず守りの人員の薄くなった外へ。さらに保守的にならず堂々のオフロード。まさに集大成のごときトライだった。