ラグビーPRESSBACK NUMBER
高校ラグビーの、W杯とは違う味わい。
王者・桐蔭の「個が際立たない」強さ。
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byKyodo News
posted2020/01/10 19:00
初優勝を狙う御所実業を退けた桐蔭学園。松島幸太朗を擁した2010年度両校優勝以来の全国優勝を果たした。
1秒でも長く立つ御所ラグビー。
御所実業は、序盤の14点リードで、やや、徹底の意思がかすれた。悔いを残すミスもあった。桐蔭学園もまた接点を練り上げているので、そこまでの圧倒的なボール争奪および防御における優位は薄れた。敗北は敗北だ。
でも、ただの敗者ではない。ラグビーの伝統の薄かった公立校をここまで導いたのだ。竹田寛行監督の手腕はとっくに確かだろう。1989年に部員ふたりのクラブで指導を始めた。あの天理高校を制して花園に出てくるだけでも、とても簡単ではない。普通のよき指導者ならあきらめる。格別によい指導者だから遠くの夢は現実となった。
11年前、やはり花園で準優勝のあとに学校で長く話を聞いた。現在に結ばれる思考と実践はすでに浸透していた。いわく「天理(高校)には普通では勝てない。たとえば一歩でも1秒でも長く立っているというような、何かがないと勝てませんので」。その精神で身体を鍛錬、サイズに劣ろうとも1対1で退かぬ強さを培い、慣習にしばられぬ独自の発想のもとにいかす。ニュージーランド発のポッド(PODS)という現在では主流の戦法、すなわち数人ずつの小集団(ポッド)を横のスペースに効率的に配置する攻撃布陣をすでに行なっていた。FW3列の選手がしばしばタッチライン際に開いてチャンスをつくった。
「足は速いけれど不器用な者はフリーにして勝負どころで使う。反対に足は遅くても器用な人間は(ポジションにかかわらず)ディフェンスのラインで数をそろえさせたりする」
ただ蹴るのではなく、空間に置きいく。
随所にアイデアはちりばめられていた。一般にパスは左展開、キックは右方向へ多用される。右利きの選手が多いからだ。そのほうが動作はスムーズになる。しかし、御所実業(当時の名称は御所工業・実業)は裏をかいた。左へよく蹴り、右にどんどん回した。いま振り返れば、多彩なキックを用いる世界の主たるスタイルの先駆のひとつでもある。「サッカーの発想。ただ蹴って渡すのではなくボールを空間に置きにいく」と解説してくれた。
今大会、左利きの10番、高居海靖を擁し、いよいよ自在に「蹴る。放る」は表現された。決勝も桐蔭学園がキックにキックで応じた時間帯は主導権を握れた。