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実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。

posted2020/01/08 11:00

 
実録・無法ウルトラスに潜入(4)「殺せ!」の怒号が響くダービー。<Number Web> photograph by Takashi Yuge

海峡ダービーのゴール裏での1コマ。サッカー場ではなく、戦場にしか見えない。

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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Takashi Yuge

 2019年10月にNumberWebにて配信した『セリエA ダイレクト・レポート』の「脅迫、暴行、報復上等の半グレ集団。ウルトラスの実態を潜入記者が語る。」は、イタリアサッカーの暗部に迫る記事として、「もっと多くのエピソードを読みたい」など多くの反響を受けた。

 そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。第4回はメッシーナとの「海峡ダービー」に臨んだ、レッジーナのゴール裏の壮絶な様子について――。

 レッジョ・カラブリアという南イタリアの港町で、一人前の男として認めてもらいたいなら「ブッダーチ」という魚の名前を覚えることだ。

 次に「Distruggiamo(ぶちのめそうぜ)」と付け加えれば満点だ。土地の人たちは拍手喝采してくれるだろう。

 海峡で捕れる悪食の雑魚「ブッダーチ」は、対岸の隣町メッシーナを揶揄する蔑称だ。メッシーナとの「海峡ダービー」が近づくにつれ、レッジョの町中で使われる頻度が増える。

 2つの町はフェリーや連絡船でわずか30分の距離にあって、経済、教育、医療など地域社会のあらゆる点で密接に交わる。

「デルビー・デッロ・ストレット(海峡ダービー)」の歴史も古く、1920年代には最初の試合が行われたことが記録に残っている。

誰も彼もが荒ぶるゴール裏。

 2005年3月13日のよく晴れた昼前、僕は自宅を出た。町のスタジアム「オレステ・グラニッロ」にメッシーナを迎え撃つ日だ。

 南イタリアの強い日差しが海峡の波間に反射している。海沿いの散歩道をスタジアム方面へ下っていくと、並行して走るローカル鉄道路線からメッシーナ・ウルトラスの奇声が聞こえてきた。

 彼らは町の北側にあるフェリー港と直結する国鉄駅から、スタジアム裏手にある鉄道資材用駅へ護送される途中だった。窓という窓から身を乗り出し、唾と濁音の罵声を飛ばしている。地元ウルトラス「ボーイズ」のTシャツを着ていた僕は一斉に罵声の対象になった。

 歴史的一戦にスタジアム周辺はいつにも増してやかましい。「グラニッロ」のクルバ・スッド(南側ゴール裏)に着くと、誰も彼もが荒ぶっている。5カ月前の借りを返すときがきた。

【次ページ】 海峡ダービー第2ラウンドが持つ価値。

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