セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。
posted2020/01/08 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。第4回はメッシーナとの「海峡ダービー」に臨んだ、レッジーナのゴール裏の壮絶な様子について――。
レッジョ・カラブリアという南イタリアの港町で、一人前の男として認めてもらいたいなら「ブッダーチ」という魚の名前を覚えることだ。
次に「Distruggiamo(ぶちのめそうぜ)」と付け加えれば満点だ。土地の人たちは拍手喝采してくれるだろう。
海峡で捕れる悪食の雑魚「ブッダーチ」は、対岸の隣町メッシーナを揶揄する蔑称だ。メッシーナとの「海峡ダービー」が近づくにつれ、レッジョの町中で使われる頻度が増える。
2つの町はフェリーや連絡船でわずか30分の距離にあって、経済、教育、医療など地域社会のあらゆる点で密接に交わる。
「デルビー・デッロ・ストレット(海峡ダービー)」の歴史も古く、1920年代には最初の試合が行われたことが記録に残っている。
誰も彼もが荒ぶるゴール裏。
2005年3月13日のよく晴れた昼前、僕は自宅を出た。町のスタジアム「オレステ・グラニッロ」にメッシーナを迎え撃つ日だ。
南イタリアの強い日差しが海峡の波間に反射している。海沿いの散歩道をスタジアム方面へ下っていくと、並行して走るローカル鉄道路線からメッシーナ・ウルトラスの奇声が聞こえてきた。
彼らは町の北側にあるフェリー港と直結する国鉄駅から、スタジアム裏手にある鉄道資材用駅へ護送される途中だった。窓という窓から身を乗り出し、唾と濁音の罵声を飛ばしている。地元ウルトラス「ボーイズ」のTシャツを着ていた僕は一斉に罵声の対象になった。
歴史的一戦にスタジアム周辺はいつにも増してやかましい。「グラニッロ」のクルバ・スッド(南側ゴール裏)に着くと、誰も彼もが荒ぶっている。5カ月前の借りを返すときがきた。