セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/08 11:00
海峡ダービーのゴール裏での1コマ。サッカー場ではなく、戦場にしか見えない。
落下地点付近には相手GKがいるはず。
後半開始まであと1分ほどか――と、スタンドへの入口を見た瞬間、僕の視界が明滅した。ピンク色の閃光を噴き出す発煙筒が、グラウンドに投げ入れられようとしている。
「危ねえぞ、下がれ!」
「こっちにもよこせ!」
チーチョが助走をつけ、色とりどりの3本を立て続けに放り込むと、他のメンバーたちも続いた。彼らが毛糸帽を目深にかぶり顔を覆うのは、後に警察から監視カメラの映像で特定されるのを防ぐためだ。
クルバの内側からは煙でよく見えないが、落下地点付近にはメッシーナのGKストラーリがいるはずだった。
“当たって怪我しようが知ったことじゃねえ”
そういう考えでなければ、こんな暴挙はできなかった。高さ10mの防御ネットを越えてグラウンド側に落ちた発煙筒は、ゴール前の芝の上でなお火花と煙を吐き続けた。
デサンティス主審は試合を中断した。
重い処分が下されるのも狙いだった。
中断によって、試合の主催責任を問われるレッジーナに後日重い処分が下されるのは確実だった。それがウルトラスの狙いだった。
ウルトラス連合は、ダービーを前に応援の元手として5万ユーロ(当時のレートで約700万円)の資金援助をレッジーナに要求していた。だが、フォーティ会長が援助を拒否したため、ウルトラス側は威力行動に出たのだった。
メッシーナの選手たちの身の安全を確保するためにサイドが変更されて、ようやく試合は再開された。
クルバ・スッドの前には再びレッジーナGKパバリーニが戻ったが、居心地は最悪だっただろう。主将モザルトを欠いたレッジーナは中盤でこぼれ球をことごとく拾われ、不甲斐ない攻撃陣には容赦ない野次が飛んだ。
83分にベンチへ退いた中村俊輔にまで抗議の口笛が鳴らされたときには、さすがに心が痛んだ。
強豪相手にもがむしゃらで泥臭く戦う。その姿勢によって愛されてきたレッジーナは、最も大事な試合のピッチにいなかった。それだけに失望はより深く、4分間のアディショナル・タイムに僕は押し黙ってしまった。負け試合にお決まりの「恥を知れ!」という罵りを、口にする気にはならなかった。