セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/08 11:00
海峡ダービーのゴール裏での1コマ。サッカー場ではなく、戦場にしか見えない。
なぜか声援に力がこもらない。
試合が始まった。レッジーナは序盤からボールを持てずに苦戦する。
サッカーは相手あってのスポーツだ。ここで奮起すべきはクルバだった。ホームの観衆も味方につけて、数の上で圧倒するレッジーナのウルトラス連合は、怒涛のコールとチャントで相手を威嚇し、味方を鼓舞するはずだった。
ところが、どういうわけか声援に力がこもらない。コールがまばらで揃わない。皆一様に“何かおかしい”と戸惑いながら顔を見合わせている。
普段のゲームなら「Noi vogliamo undici leoni, 11, 11,11 leoni……(11匹の獅子になれ!)」という定番チャントが初っ端と決まっていた。
それが、突如別のコールに変更されて、いつもと違う流れに大太鼓もフラッグ係も当惑する。強固な一枚岩であるはずのクルバが、海綿のようにスカスカだった。声援のボリュームも一向に上がらない。
そんな馬鹿な、こんなにぎゅうぎゅう詰めなのに!?
苛立ちながら周囲を見渡すと、知らない顔がそこかしこにあった。一見して物見遊山の“にわかファン”とわかる層が、一番安いチケットのゴール裏席にかなりの数で紛れ込んでいた。注目イベントだからと足を運んだ彼らには、ゴール裏のルールもチャントも、もしかするとレッジーナの勝利すらも大した意味はなかった。
他のメンバーと同様に腹立たしかったが、一方で応援は強要されるべきものでもないということも頭の片隅でわかっていた。原因がわかっても排除はできない。
「ぶっ壊せ!」「殺せー!」
前半で2つの失点を重ねたレッジーナに、クルバのフラストレーションは膨れ上がった。統率のとれた歌声やコールではなく、各々が普段以上に過激なボキャブラリーを勝手に叫んでいた。
「Distruggilo!(そいつをぶっ壊せ!)」
「Ammazzalo!(殺せー!)」
レッジーナの選手がタックルに入ろうとするたびに、狂った叫びがグラウンド目がけて飛んだ。苛立ちは凶暴な殺気となって、ハーフタイムの“ゴール裏の裏”に充満する。
“ある種の草”の匂いが漏れてくる、暗いトイレの近くで「ボーイズ」副リーダーのチーチョに、第3勢力「クックン」のリーダーが近づき何事か耳打ちした。