セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/08 11:00
海峡ダービーのゴール裏での1コマ。サッカー場ではなく、戦場にしか見えない。
海峡ダービー第2ラウンドが持つ価値。
前年秋の第9節、セリエA史上初の海峡ダービーがメッシーナの新スタジアム「サン・フィリッポ」で行われた。「ボーイズ」を筆頭とするレッジーナ・ウルトラス連合は事前にカンパを募り、グループグッズを売って作った資金を元手に高さ2.5mの深紅色のチェッカーフラッグ1300本を用意し、当日のアウェー用スタンドを埋めた。
だが、彼らの声援むなしく試合はFW柳沢敦が活躍したメッシーナの2-1勝利に終わり、レッジョの町は失意のどん底に沈んだ。
しかし、レッジーナはそこから盛り返した。ホームでユベントス、ローマ、ラツィオに勝ち、インテルとも引分けるなど“強豪キラー”として這い上がってきた。
海峡ダービー第2ラウンドは、UEFA杯(当時)出場枠の期待もかかる好チーム、レッジーナが地元でリベンジなるか、という注目カードだったのだ。
お前らは罠の中だ、との垂れ幕。
臨戦態勢のコールリーダー、カルミネが声を荒げる。
「おまえら全員、わかってんだろうな! 今日はありったけの根性見せろよ!」
ウルトラス最大の見せ場はキックオフ直前だ。
クラブテーマソングのイントロが始まると同時に、南側スタンドの最上段からロール状に並べられた全幅50m超のフィルム製垂れ幕が下ろされ始めた。動力源は2000人の万歳の先にある両手首、人力だ。
スタンド全面を埋める巨大コレオグラフィーのデザインテーマは、“海峡を飛び越えながら怯える黄色と赤の子ウサギ(=メッシーナ)を追い詰める深紅色のスパイダーマン”。
「IN TRAPPOLA(おまえらは罠の中だ)」と挑発する。
真下でフィルムを支える僕や周囲の視界には、海面にあたる水色しか目に入らない。表側から見ることはできなくとも、2万を越す地元観客とTVで見ている数十万人の目には、スペクタクルがばっちり焼きついているはずだ。
残るスタンド3面も、メッシーナ応援団席の一角を除くすべてがメタリック・レッドの小旗で埋まった。
テーマソングの大合唱が終わると、ビニールフィルムは当初の取り決め通り下方に向かって乱暴に丸められて、実にあっけなく、それこそ霞のように儚く消えた。
それでも惜しむ人間はいない。1カ月かけて準備した高さ20mのスパイダーマンは、ゴール裏の心意気。その日、その試合を彼らが生きた証だった。