セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(4)
「殺せ!」の怒号が響くダービー。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/08 11:00
海峡ダービーのゴール裏での1コマ。サッカー場ではなく、戦場にしか見えない。
内なるクルバ自身に敗れた。
なぜ、よりによってダービーで自分たちの町のチームに呪詛の言葉を吐かなければならないのか。周りのメンバーたちも次第に無言になっていった。
「おおお……」
古参メンバーのジャンフランコが、膝の間に頭を抱えて泣いていた。
試合終了の笛が鳴ると、カルミネはフェンス上の足場を降りた。引火して燃え上がった横断幕をグシャグシャと踏みつけながら、スタンドの裏に消えた。
レッジーナはダービーという大一番に負け、ウルトラスは大舞台で自分たちを見失った。
警察に打ちのめされたわけでも、メッシーナ・ウルトラスとの衝突に負けたわけでもない。ただ、内なるクルバ自身に敗れた。
1時間後、独りになったカルミネを見つけた。目は虚ろで憔悴しきっていた。
スタジアム周辺には大幅に増員された500人の機動警官隊がまだ居座っていたが、彼を見つけたゴール裏はもう撤収が完全に済んでいて、僕ら以外誰もいなかった。
「煙草、吸う?」
「……いや、今はいい。また今度な」
3日後、イタリア・スポーツ裁定委員会は、試合主催責任のあったレッジーナに5万ユーロの罰金処分を課した。
武勇伝を持つリーダーが市役所勤め。
ダービーから数日後、市役所前の広場にある新聞スタンドでカルミネを見つけた。売り物の地元紙1部を店頭に広げて堂々と立ち読みしている。新聞代なんか払うわけがない。店主エンツォもゴール裏の住人だから、首をすくめて苦笑いするだけだ。
レッジョの町でカルミネを知らない者はいなかった。
数々の暴力沙汰と武勇伝を持つゴール裏のリーダー。絶大な支持を誇り、本部でも街角でも彼の回りには人が絶えなかった。だが、その背中に孤独の影があることを僕はずっと不思議に思っていた。
どういう手を使ったのか、カルミネは前の年から市役所に働き口を見つけていた。前科持ちのウルトラスのリーダーが公務員だなんてそんな馬鹿な、と思うが本当の話なのだから仕方ない。
そのとき36歳だった彼に、前に何の仕事をしていたのか聞いたことがある。
「モッツァレッラだよ、モッツァレッラ」
(9日配信の第5回に続く)