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三浦隆司の人生を変えたKO負け。
米年間最高試合の後に起こったこと。
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![日比野恭三](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/1/b/-/img_1be67d269859b525ac8f5c3e2dede8486826.jpg)
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byTakashi Shimizu
posted2019/11/21 17:00
![三浦隆司の人生を変えたKO負け。米年間最高試合の後に起こったこと。<Number Web> photograph by Takashi Shimizu](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/700/img_ce319646aca67c57174c183d955c9c59153534.jpg)
やわらかい表情の中に、瞬間的にファイターの顔が出る。三浦隆司はボクサーの佇まいを残していた。
1Rのピンチ、8Rのチャンスを経て……。
試合は、いきなり動く。
第1ラウンド、バルガスの猛攻を食らったのだ。ダウンはしなかったものの、ダメージの深さは見るに明らかだった。
その危機をなんとか脱すると、三浦は徐々に主導権を取り戻す。第4ラウンド、ボンバーレフトの異名をとる左ストレートを挑戦者の顔面にぶちかます。バルガスは爆風にさらされたかのごとく、コーナーに吹っ飛んだ。
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そこから先、ともに余裕を持たない両者は、パンチを繰り出しては体をあずけ、被弾しては踏みとどまった。互いの生命力を削り合うかのようなラウンドが重なる。
均衡が破れたのは第8ラウンド終盤だった。三浦がラッシュをかけてバルガスを押し込む。次のラウンドでKO決着――。その未来を思い描いたのは、三浦だけではなかったはずだ。
しかし、バルガスは生きていた。第9ラウンド、仕留めにかかる三浦にアッパー、フックと、左のダブルを繰り出す。初回に王者を窮地に追い込んだときも、きっかけは死角からの左だった。
「全然見えないです。見えるパンチはある程度耐えられますけど、見えないパンチは倒れちゃうんです」
逆転勝ち寸前の大逆転負け。
返り討ちに遭った三浦はついにダウンを喫した。立ち上がろうとしてバランスを失った。我ながら「これはやべえ倒れ方だな」と一瞬で悟り、再び立ち上がりざまに仰々しく両拳を掲げてレフェリーに無事をアピールした。
さらに攻め込んできたバルガスから、三浦は逃げ切ることができなかった。時間は存分に残されていた。反則覚悟でクリンチを試みたが振りほどかれ、バルガスの右を額に浴びてのけぞったところでレフェリーが試合を止めた。
逆転勝ち寸前の大逆転負け、とでも書けばよいだろうか。だからこそ、敗者の悔しさもひとしおだった。