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三浦隆司の人生を変えたKO負け。
米年間最高試合の後に起こったこと。 

text by

日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

PROFILE

photograph byTakashi Shimizu

posted2019/11/21 17:00

三浦隆司の人生を変えたKO負け。米年間最高試合の後に起こったこと。<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

やわらかい表情の中に、瞬間的にファイターの顔が出る。三浦隆司はボクサーの佇まいを残していた。

1Rのピンチ、8Rのチャンスを経て……。

 試合は、いきなり動く。

 第1ラウンド、バルガスの猛攻を食らったのだ。ダウンはしなかったものの、ダメージの深さは見るに明らかだった。

 その危機をなんとか脱すると、三浦は徐々に主導権を取り戻す。第4ラウンド、ボンバーレフトの異名をとる左ストレートを挑戦者の顔面にぶちかます。バルガスは爆風にさらされたかのごとく、コーナーに吹っ飛んだ。

 そこから先、ともに余裕を持たない両者は、パンチを繰り出しては体をあずけ、被弾しては踏みとどまった。互いの生命力を削り合うかのようなラウンドが重なる。

 均衡が破れたのは第8ラウンド終盤だった。三浦がラッシュをかけてバルガスを押し込む。次のラウンドでKO決着――。その未来を思い描いたのは、三浦だけではなかったはずだ。

 しかし、バルガスは生きていた。第9ラウンド、仕留めにかかる三浦にアッパー、フックと、左のダブルを繰り出す。初回に王者を窮地に追い込んだときも、きっかけは死角からの左だった。

「全然見えないです。見えるパンチはある程度耐えられますけど、見えないパンチは倒れちゃうんです」

逆転勝ち寸前の大逆転負け。

 返り討ちに遭った三浦はついにダウンを喫した。立ち上がろうとしてバランスを失った。我ながら「これはやべえ倒れ方だな」と一瞬で悟り、再び立ち上がりざまに仰々しく両拳を掲げてレフェリーに無事をアピールした。

 さらに攻め込んできたバルガスから、三浦は逃げ切ることができなかった。時間は存分に残されていた。反則覚悟でクリンチを試みたが振りほどかれ、バルガスの右を額に浴びてのけぞったところでレフェリーが試合を止めた。

 逆転勝ち寸前の大逆転負け、とでも書けばよいだろうか。だからこそ、敗者の悔しさもひとしおだった。

【次ページ】 内山高志にKO負けしていなければ……。

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三浦隆司

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