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<直撃インタビュー>
辰吉丈一郎のKO論。
posted2019/11/24 15:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Naohiro Kurashina
決してKOを量産したボクサーではないが、彼のKOがファンの心深くに残るのはなぜか。輝かしい自らの過去を振り返ることを拒み、3度目の王座返り咲きだけを目指す――。今も次の闘いに備える男のKO論とは。(Number990号掲載)
現代・大阪の夜を車が走り抜けていく。49歳の辰吉丈一郎は今日も自分の名がプリントされたジャージに身を包んでいる。日々、陽が落ちる時刻になるとジムへ向かう。この日は守口の自宅から南へ40分。堺東のミツキボクシングジム。
幹線道路に面したガラス張りの扉を開けると馴染みの顔が待っていた。
春木博志、51歳。このジムの創設者であり、現在はプロモーターを務めている。
「おう、来たか」「早い時間にすまんね」
話もそこそこに辰吉はバンデージを巻き始める。言葉はいらない。それだけの時間を共有してきた証拠だ。とりわけ二人はボクシング史に残るKO劇をともに闘った。
「僕、そんなにKOは多くないよ。僕より多いボクサー大勢いるんちゃうかな」
辰吉の言葉通り、プロキャリア28戦のうちKO勝ちは半分の14。世界タイトルマッチ11戦に限れば2つ。KO率18%。
では、なぜ辰吉のKOはこれほど脳裏に刻まれ、心に残っているのだろうか。
「考えが古いせいか、僕の中ではボクシングというより拳闘なんです。二つの拳だけで闘う。真剣を持って向かい合って一撃かわされたら殺られる。そういう感覚はありますよ。倒さんことにはやられるという」