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三浦隆司の人生を変えたKO負け。
米年間最高試合の後に起こったこと。

posted2019/11/21 17:00

 
三浦隆司の人生を変えたKO負け。米年間最高試合の後に起こったこと。<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

やわらかい表情の中に、瞬間的にファイターの顔が出る。三浦隆司はボクサーの佇まいを残していた。

text by

日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

PROFILE

photograph by

Takashi Shimizu

 WBC世界スーパーフェザー級の元王者、三浦隆司がリングを去ってから2年余りが経つ。現在は郷里の秋田で、小学生から高校生までを対象にして、ボクシングを教えている。

 11月初旬、Number990号の取材のため、秋田市の秋田県スポーツ科学センターを訪ねた。三浦はその日の夕刻、ボクシング部を持たない高校の生徒数名を指導していた。高校生たちの多くは競技歴がそう長くないのだろう、教えられている内容は初歩的なもののようだった。三浦もまた、ややぶっきらぼうではあれど、やさしさをもって手ほどきしていた。

 ただ、リングの上で技術を実践してみせるときに限っては、三浦の眼光がファイターのそれに戻るのが印象的だった。

 37戦したプロの舞台からの去り際は潔かった。王座返り咲きを狙ったミゲル・ベルチェルト戦で判定負けを喫してから2週間経たずして、「後悔ありません」と、引退を表明した。

 だが、今回のインタビューの中で三浦は、あれから2年以上が過ぎ去ってなお、現役のプロボクサーだったころの記憶をふと思い出すことがあるのだと明かした。

頭をよぎる「やってればな」。

 少し訛りのある口調で、35歳は訥々と話した。

「頻度は減ってきてますけど、『やってればな』とか『階級上げてたらやれてたかな』とか、やっぱりそういうのはあります。たぶんボクサーは引退したら、みんなそうじゃないですか」

 しばしば思い出される試合がある。ちょうど4年前の2015年11月、フランシスコ・バルガスと拳を交えた一戦だ。三浦は5度目の王座防衛を果たすべく、ラスベガスにあるマンダレイ・ベイのリングに上がった。

 サウル“カネロ”アルバレス対ミゲール・コット戦をメインとする興行のセミファイナル。三浦にとってそれは、「夢にも思っていない大舞台」だった。

【次ページ】 1Rのピンチ、8Rのチャンスを経て……。

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三浦隆司

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