ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
不屈のトッテナムに神を見た逆転劇。
美しく散ったアヤックスにも喝采を。
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph byAFLO
posted2019/05/09 18:00
CL史に残る90+6分での逆転ゴール。トッテナムとアヤックス、対照的な感情が浮き彫りになった。
逆境を跳ね返し続けたトッテナム。
特に2点目の粘り強さが、今季のトッテナムを象徴しているように思える。
バルセロナ、インテル、PSVと同居する“死の組”に振り分けられたグループステージでは、最初の3試合で1分け2敗と勝ち点「1」しか手に入れられず、早々に敗退危機に追い込まれた。しかしここから、スパーズは驚異的な粘り強さを見せたのだ。
第4節のPSV戦では、ラスト15分でケインが2点を挙げて2-1の逆転勝利。第5節のインテル戦でも、80分にクリスティアン・エリクセンが決勝点を挙げて1-0の辛勝。そしてバルサとの最終節では、負ければ敗退の状況で1点ビハインドを追う展開になったが、85分に途中出場のルーカスが同点ゴールを叩き込み、ギリギリでグループ2位に滑り込んだのだ。
決勝ラウンドでもそうだ。準々決勝マンチェスター・シティ戦ではセカンドレグの終盤まで“このままいけば敗退”の状況に置かれていたが、73分にジョレンテがセットプレーから決めたゴールで、見事な逆転を果たしている。
ネバーギブアップの精神で、彼らはクラブ史上初となるCLファイナルの舞台までたどり着いたのである。
失意のアヤックスに送られた拍手。
トッテナムの選手たちが歓喜に沸く一方で、アヤックスの面々は最後の最後の瞬間まで猛攻を耐えていたにもかかわらず、勝利の女神に見放された。一様にピッチに突っ伏し、敗北に打ちひしがれていた。
ただ、ヨハン・クライフ・アレーナのサポーターは温かかった。それもそうだろう。アヤックスは、レアル・マドリーやユベントスを打ち破りながら一戦ごとに成長し、トッテナムをギリギリまで追い詰めたのだから。
そんな美しく散っていったチームに対し、いつまでも拍手と声援を送っていた。
サポーターでなくとも、今季のアヤックスには観る者を惹きつける魅力があった。ヨーロッパで「トータル・フットボール2.0」と呼ばれた彼らのサッカーには、確固たる哲学が透けて見えて、それを貫き通す姿勢がこの上なく清々しかった。
それを構築し、具現化してきたエリク・テンハーフ監督は、準々決勝でマンチェスター・シティを打ち破ったトッテナムに、誰よりも勝ちたかったことだろう。スパーズに敗れたシティは、自分の師であるペップ・グアルディオラのチームだからだ。“敵討ち”と言ったら大袈裟だが、思うところがあったに違いない。