ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
不屈のトッテナムに神を見た逆転劇。
美しく散ったアヤックスにも喝采を。
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph byAFLO
posted2019/05/09 18:00
CL史に残る90+6分での逆転ゴール。トッテナムとアヤックス、対照的な感情が浮き彫りになった。
母国1部からドイツ4部に渡った監督。
現役時代は母国オランダを出たことがなかったテンハーフは、2013年にドイツへと渡る。
母国ではゴーアヘッド・イーグルスを17年ぶりの1部昇格に導いたばかりで、そのまま留任すればトップリーグで監督を務められるチャンスがあった。にもかかわらず、ドイツ4部に所属するバイエルンのリザーブチームの監督になることを決めたのだから、周囲はたいそう驚いたという。
「エールディビジを捨ててドイツ4部に行った時、オランダの人々はほとんどが懐疑的だったのをよく覚えている。だが、決断を後悔したことは一度もない」
彼はそう言う。当時バイエルンでトップチームを率いていたのはペップだった。彼は、バルセロナで栄光を勝ち取ったペップがドイツの地でも革命を起こすところを、間近で見たかったのだ。
「彼と仕事をするのは、毎日楽しみだったよ。彼は私にインスピレーションを与えてくれた。当時、私はペップのほぼ全てのトレーニングセッションを見ることができた。非常に多くのメソッドを学ぶことができたんだ」
ペップの門弟として指導力を磨いたからこそ、テンハーフはその後、ユトレヒトの監督を経てアヤックスのベンチにたどり着くことができた。彼はアヤックスでプレーした経験は一度もなかったが、ドイツでペップを経由したことで、アヤックスに息づくヨハン・クライフのイズムを継承した。だから、声がかかったのだ。
アヤックスにつけたペップの香り。
「グアルディオラの哲学はセンセーショナルだった。彼はバルセロナ、バイエルン、シティでそれを実証した。彼の構造化された攻撃的プレーはとても魅力的で、私はそれをアヤックスに実装することを目指している。グアルディオラはイノベーターであり、インスピレーション。私たちに共通しているアイデアは、いいプレーをして勝ちたいということだ」
過去の現地インタビューでそう語っているテンハーフは、言葉通り、アヤックスにペップの香りをつけていった。
ポゼッションへのフォーカス、ボールを奪われたら即座に取り返しにいくプレッシング、4-3-3システム、MFのようにプレーするサイドバックのヌセル・マズラウィとニコラス・タリアフィコ、ドゥシャン・タディッチの偽9番、フィールドプレーヤーのごとく足元のプレーができるGKオナナ……これらはみなペップが世に浸透させてきたアイデアを踏襲したもの。
それはいつまでも見ていられるような、美しいフットボールの礎になった。