“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
なぜ代表にFKの名手が不在なのか?
中村俊輔と母校で考えた環境の話。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/04/05 11:30
桐光学園サッカーグラウンドのベンチにて。左から、佐熊裕和元桐光学園サッカー部監督、中村とその1年後輩の井手口純。
「上手くなる術を自分で探して工夫する」
「上手くなる術を自分で探して工夫する」――これはまさに彼の生き方そのものだ。
中学時代、横浜マリノスジュニアユースに所属していたが、その線の細さと小柄な体格からユースへの昇格ができなかった。しかし、彼は自分の線の細さを補うために足下の技術、そしてそれを生かす状況判断を「自分の長所」として探し当て、磨き続けたのだ。その努力は、桐光学園の佐熊裕和監督(現・新潟医療福祉大サッカー部監督)の目に留まった。
「キック力はないけど、左足のショートパスの精度はずば抜けているし、物凄く遠くを見ている選手だと思った。ここまで広い視野とパスを持っていれば、後は身体ができてくればかなり面白い存在になる」
佐熊監督の目論見通り、桐光学園に入ってから身長が伸び、筋力もついてきたことで、彼の左足の技術はより研ぎ澄まされたものとなっていった。
ようやく自分の能力が陽の目を見ることになったわけだが、彼はそこにあぐらをかくこと無く、自分がさらに上手くなる「術」を新たに探し始めていた。
その答えが、薄暗いグラウンドで黙々とFKを蹴る姿だったのだ。
自分の能力をどこまで客観視できるか?
「自分を客観的に見ることができていれば、自分は何が得意で、何が苦手かが分かると思う。それが分かっていれば、どんな環境だろうが自分で自分を伸ばすことは可能なんです。
例えば、あの壁(グラウンドのゴール側の奥にある、ゴール枠が8分割されたボード)なんか凄く良いですよね。あれを使ってキックコントロールをいくらでも磨けるし、あの辺(バックサイド側)の斜めの壁もボールを当てたら上に上がるから、自分で蹴って跳ね返りをトラップする練習もできるし……探せばいくらでも活用できるものがあるんですよ」
磨くべき自分の弱点が深く理解できているからこそ、飽きること無く延々と(無限とも言えるほど!)繰り返しの練習ができる――。あの中村俊輔の極端な反復練習は、十代にして自分を徹底的に客観視できている証拠でもあった。