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MLBが気にする「投手酷使指数」とは。
投手の肩という資産の有効運用を。
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広尾晃Kou Hiroo
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posted2018/02/03 11:30
![MLBが気にする「投手酷使指数」とは。投手の肩という資産の有効運用を。<Number Web> photograph by Getty Images](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/700/img_54d1d74eebc27b7df1974495c8f45129142797.jpg)
バーランダーなどメジャーの投手も球数は投げるが、1回の登板での球数は日本よりも確かに少ない。
鉄腕はMLBでは「例外」、NPBでは「理想」。
実はMLBでも、そういう投手はいた。1979年、40歳のフィル・ニークロは342回を投げた。23完投している。
1974年には27歳のノーラン・ライアンが332.2回を投げている。26完投。延長13回を最長に3回も延長戦を完投している。2人とも球数はわからないが、PAPは凄い数字になるはずだ。
日米ともに、少数ながら、球数を投げても故障しない鉄腕投手が存在する。
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しかしMLBは、そうした投手を「例外」と考え、多くの投手に少しでも長く登板させるために球数制限をした。そしてPAPのような指標で投手を管理している。
NPBは、何球投げても壊れない投手こそ「理想」と考えた。最近は「球数制限」も浸透しつつあるが、それでも「多く投げる方が優秀」という意識が根強く残っている。
ということではないか。
「怪我をしないフォーム」の研究は日本が上。
ただ1つ弁護をするならば、日本野球では「怪我をしないフォーム」がずいぶん研究されている。ひとかどの投手コーチは、フォームについて一家言を持っている。しかしアメリカの投手コーチは、フォームには口を出さない。向こうの投手は自己流でフォームを作るのが普通だ。
ヤンキース時代の黒田博樹が、アメリカの投手に怪我をしないフォームの手ほどきをして「これなら何球でも投げられる」と感謝されたという逸話があるが、多くの球を投げるための技術、工夫は日本の方が進んでいる。
しかし、どんなに良いフォームで投げても、全力で投げ続ければ故障のリスクは高まる。程度の問題であって、フォームは「決め手」ではない。
少し前まで、私は高校野球の取材もよくした。監督や選手に話を聞いた後、スタンドに腰を下ろしていると野球部の支援者の人によく声をかけられた。
「彼は外野手をしていますが、去年までエース候補でね。でも、秋の練習試合で完投してから投げられなくなった。いい投手だったんですが、根性がね」
「今はあの投手がエースということですが、実は彼と同じくらいのいい投手が2人くらいいましてねえ、でも2人とも投げ込みすぎて肩や肘を壊してやめちゃったんですよ」
私は小さくため息をついてしまう。
投手の肩は、その投手、チーム、そして野球界全体の「資産」だ。野球界は、その「資産」をできるだけ長く保全し、より有効に運用するべきではないのか。
大谷翔平という史上まれに見る「資産価値」を有すると目される投手は、日本ハムからエンゼルスに譲渡された。
エンゼルスは大谷の「資産」をどのように活用していくのか。今シーズンに注目したい。
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