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MLBが気にする「投手酷使指数」とは。
投手の肩という資産の有効運用を。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2018/02/03 11:30

MLBが気にする「投手酷使指数」とは。投手の肩という資産の有効運用を。<Number Web> photograph by Getty Images

バーランダーなどメジャーの投手も球数は投げるが、1回の登板での球数は日本よりも確かに少ない。

完璧ではないが、「これ以外の有効な指標もない」。

 大谷翔平は二刀流であり、入団時からMLB挑戦が既定路線になっていたので、投手としても慎重な使われ方をした。しかしそれでもやはり数値は高めだ。

 大谷の年度別のPAPは、こうなる。

2013年 1098球 PAP 3540
2014年 2538球 PAP 26万6554
2015年 2462球 PAP 17万5643
2016年 2229球 PAP 17万4285
2017年 403球 PAP 1万4336

 昨年は5試合403球しか投げていないが、2014年からの3年間、大谷は2000球以上を投げ、PAPは黄信号の10万を大きく越えている。2014年は26.6万にも達している。MLB側もこの数字を十分承知している。だから気をもんでいるのだ。

 PAPは、アメリカでも評価が分かれる指標だ。そもそも「100球」に科学的な根拠はない。

 PAPの数値が小さくても、故障する投手はいる。最近の研究では、全力投球をすれば1球でも肩や肘を損傷することがあるという。また登板間隔も考慮されていない。

 しかし現状では、「これ以外の有効な指標がない」のだ。だからMLBの球団はPAPを遵守しようとする。

藤浪晋太郎は2016年に161球投げたことがある。

 PAPは「疲労の蓄積」の指標ではあるが、それだけではない。

 確かに100球を大きく越えて投げれば筋肉は炎症を起こし疲労は蓄積される。しかしそれだけなら、登板間隔を開ければ解消する。チャージされる。しかし、登板過多によって肩やひじの靭帯や腱、骨が摩耗、損傷した場合は、休んでも回復することはない。

 そういう状態になったうえで、一定の負荷を越えれば靭帯や腱が破断したり、骨折したりして投げられなくなる。そういう意味ではPAPは「リスクの蓄積」の指標でもあるのだ。

 2016年、阪神の藤浪晋太郎は161球を投げたことがある。PAPはこの試合だけで22.6万になった。

 藤浪のPAPは2015年は68.4万、2016年は56.9万に上った。いずれもNPBで1位だった。昨今の不振は、登板過多によるものと考えるのが普通だろう。

 単なる「疲労」であれば、ノースローで回復することもあるが、肩や肘を損傷しているのであれば、休んでも、フォームを改造しても復活できない。

【次ページ】 プロ以上に懸念されている、高校野球の投げすぎ。

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