酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
MLBが気にする「投手酷使指数」とは。
投手の肩という資産の有効運用を。
posted2018/02/03 11:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Getty Images
いよいよキャンプシーズン、日米ともに「球春」間近だ。MLBでは青木宣親の日本復帰はちょっと残念な気がするが、大谷翔平の「未知への挑戦」が楽しみだ。
ところで、大谷の移籍先が決まってからの報道の中で、気がかりなものが1つある。
それは「大谷翔平が右肘の内側側副靱帯を損傷し、このオフにPRP注射をした」というものだ。
肘の靭帯は投手の生命線だ。これが大きく損傷したり断裂したら、「トミー・ジョン手術(側副靱帯再建術)」を受けなければならない。そうなったら、1年以上を棒に振ることになる。ダルビッシュ有、田澤純一、松坂大輔などが苦労したのが記憶に新しい。
PRP注射というのは、自分の体内から抽出した血小板を患部に注射するもので、損傷した靭帯を自身の治癒力で修復しようというものだ。ヤンキースの田中将大がこの治療をしたことが知られている。
エンゼルスは「翔平は精密な身体検査を受けている。深刻な外傷は見つかっていない」と不安を打ち消した。
MLBは日本の投手起用法に神経を尖らせている。
この手の情報にMLB側が神経をとがらせている背景には、日米の「投手の起用法」の違いがある。
昨今、アメリカでは高校生からマイナー、そしてMLBまで投手の球数は厳格にチェックされ、制限されている。投げ過ぎは故障につながるし、場合によっては再起不能になりかねないからだ。
日本でも昔に比べれば「投げ過ぎ」を抑制しようという動きはあるが、それでも甲子園やプロ野球の大一番では、投手は限界を超えて投げる。ある意味それが「投手の見せ場」のように思われている。
大谷翔平だけでなく、NPBからMLBへ渡るような大物投手は多かれ少なかれ、大舞台でアメリカでは考えられない球数を投げ込んでいる。だから肘や肩に損傷を負っている。
大谷を獲得するときに、エンゼルスもそれを一番気にしたのだろう。だから「右肘の治療をした」という報道に過敏に反応したのだ。