ドイツサッカーの裏の裏……って表だ!BACK NUMBER
1対1なしでボールを奪うのが最先端!?
29歳の監督がブンデスの文化を覆す。
text by
遠藤孝輔Kosuke Endo
photograph byAFLO
posted2016/11/22 11:30
ジーンズ姿でコーチングエリアに立つ姿も、まさに若き改革者。まるで新興IT企業の代表のようだ。
大学で経営を学び、指導者ライセンストップ合格の秀才。
当然ながら、指導者が豊富な情報をフル活用するには新たな手法やシステムの導入に嫌悪感を示さない「頭の柔らかさ」が必要だろう。情報を整理し、的確に選手に伝達できる能力がなければ、それこそ宝の持ち腐れとなってしまう。
ナーゲルスマンにその種の心配は無用かもしれない。膝の怪我により、20歳で現役引退を余儀なくされた彼は、大学で経営経済学を学んだだけでなく、ドイツサッカー連盟の指導者ライセンス(A級)をトップ成績で取得した。いわば秀才なのだ。新たな知識を得る能力に関しては疑問を挟む余地がない。
デュエルの文化を覆すことはできるのか。
ホッフェンハイムU-19を'13-'14シーズンのドイツ王者に導いただけでなく、自分より年長のプレーヤーも存在するトップチームを躍進させたことで、ナーゲルスマンのコミュニケーション能力を疑問視する見方も消えつつある。
これから問われるのは、チームがスランプに陥った際の求心力だろう。結果が出ない時期が訪れても、選手は若き指揮官に信頼を寄せ続けるのか。それでも先に立つのは不安より期待の方だ。ナーゲルスマンの将来に疑問を呈する者は少ない。
史上最年少でブンデスリーガ優勝監督となったのは、'01-'02シーズンのドルトムントを王者に導いたマティアス・ザマー(前バイエルンSD)だ。当時の彼は34歳の新米監督に過ぎなかった。1987年7月23日生まれのナーゲルスマンが、その記録を更新するためのデッドラインは'20-'21シーズン。今季も含めると、まだ5シーズンも残っている。
デュエルの文化が根付いた国のリーグに今、デュエルを重視しない青年監督が爽やかな新風を吹き込んでいる。