サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
細かなパス回しか、縦への速さか?
ハリルJ初陣で見えた、日本の葛藤。
posted2015/03/28 12:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Takuya Sugiyama
ハリルホジッチ監督は、きっと正直な人だ。
チュニジア戦を見ていたら、彼が監督就任会見とメンバー発表会見で強調していた2つの言葉の意味が、よーく分かった。
「われわれには時間が必要だ。時間をください」
「3月の2試合は勝利にこだわります」
まずは前者について。今回の大分合宿で、新監督は多くの改革を試みた。ミーティングではブラジルW杯の映像を駆使しながら日本の欠点を指摘し、トレーニングでは球際での激しさと、少ないタッチ数での速攻を意識づけ。さらには食事会場でのテーブルの配置や、試合前日のメディア対応の制限まで、口を酸っぱくして指示してきた。
ただし、日本代表選手ともなれば、長期間にわたって自身のサッカー哲学を築き上げ、それぞれがこだわりを持って技術を磨いてきている。幼い頃から染み付いた癖や習性、思考が、たった3日間の合宿で根本的に変わるわけがない。
前半は直線的にゴールへ向かう速攻がほとんど無く……。
わかっていても、やめられない。チュニジア戦の前半は、選手たちの葛藤がよく表れた45分間だった。
例えば、32分のシーン。相手ボールを奪い、右サイドから吉田麻也がドリブルで持ち出し、DFの背後へのパスを狙っていた。ハリルホジッチ監督が強調していた「縦に速い」展開をするには、絶好の場面。ところが、パスの受け手となる川又堅碁や永井謙佑、酒井宏樹は、裏のスペースに走るのではなく、後方へ下がって吉田に近づいて来た。そうなれば、相手はパスコースとスペースを塞ごうと、体を寄せる。たちまち右サイドは渋滞となった。吉田は懸命に「裏に抜けろ」というジェスチャーを出し、永井や川又は慌てて方向転換したが、時すでに遅し。最適なタイミングを逸したパスは、相手に渡った。
「ボールを奪った後のゲーム支配という部分では、まだ満足していない。奪ってからの最初のパスでまだまだ短いパスを使いすぎている。もっと長いパスを狙っていきたい」
試合後にハリルホジッチ監督が語ったように、この試合の前半、直線的にゴールへ向かう速攻は、ほとんど見られなかった。