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<日本卓球の至宝、覚悟の告発> 水谷隼 「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」
text by
城島充Mitsuru Jojima
photograph byTakanori Ishii
posted2012/11/20 06:01
議論の対象として受け止められない日本の問題提起。
水谷の思いを受け止めた木村氏は「新しい検査器を導入しても、いたちごっこに終わる懸念が残ります。問題を解決するには、抜本的な改革が必要なんです」と語る。
「例えば、日本卓球協会では接着剤を使わずにラバーをラケットに貼り付ける接着シートを研究開発し、すでにITTFにも提言しています。『簡単にはがれてしまう不安がある』とアスリート委員会から反対されていますが、他にも薄いアルミをラケットの表面に貼り付け、ラバーの厚さを簡単に計測できる方法、あるいは接着剤を公認制にし、成分を正確に把握したうえで試合後にはがして異物が混入していないか検査する方法などを検討しています。しかし、他の国の理事たちの問題意識が薄く、ITTF内では日本が投げたボールを議論の対象としてきちんと受けとめてくれていないというのが実感でした」
「メダルを獲れなかった言い訳にするな」という声も。
だが、ロンドン五輪開催中にアダム・シャララ会長が「不正行為をしている選手がいるのはわかっている」と、日本のテレビ局の取材に語ってから流れが変わってきたという。
「これは大きな前進です。トップが不正を認めたのですから、ITTFは急いで問題解決にあたらなければいけません。水谷選手の憤りは理解できますが、今は自分の技術を磨くことに集中してほしい。問題が解決したとき、改めて日本選手のフェアプレーの精神が讃えられるはずですから。シャララ会長は同じ取材で『リオまでには解決したい』と語ってましたが、私個人の思いとしては、この1年以内にすべての状況をフェアにしていきたい」
ロンドン五輪のあと、問題を解決するためには自分の進退をかけるしかないと思いました。それで静岡に帰省したとき、新聞記者の人たちに補助剤の問題を訴え、解決するまでは国際大会を欠場する意向を伝えたのです。
いろんな反応がありました。「メダルを獲れなかった言い訳にするな」という声も聞こえてきました。僕の立場が危うくなることを心配してくれる人もいましたが、僕は自分の競技人生だけではなく、卓球という競技が歪んだ方向へ流れていくのをなんとかしてくい止めたいのです。