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<日本卓球の至宝、覚悟の告発> 水谷隼 「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」 

text by

城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph byTakanori Ishii

posted2012/11/20 06:01

<日本卓球の至宝、覚悟の告発> 水谷隼 「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」<Number Web> photograph by Takanori Ishii
若くして日本の卓球界を担う稀代の天才プレーヤーは、
ある世界的な“不正行為”の犠牲となり、苦しんできた。
違法な用具を使うことなく、ただ、フェアな条件で戦いたい。
卓球という競技の未来のため、選手生命を賭け、問題提起する。

日の丸を背負って北京、ロンドンと2度の五輪を戦った水谷隼。
Number815号に掲載された勇気ある告発を全文公開します。

 僕はこれから、選手生命をかけて卓球界に横行している不正行為と戦っていきたいと思っています。もちろん、アンフェアな状況への憤りがあるからですが、それだけが理由ではありません。このまま不正行為を放置すれば、卓球というスポーツの未来にも暗い影を落としていくという危惧が心の底にあるからです。

「補助剤」をラバーの裏側に塗ることで、大きく変わる打球の質。

 卓球をしている人なら「補助剤」、英語で「ブースター」と呼ばれる液体のことは聞いたことがあると思います。その多くは石油系油脂ですが、ラバーの裏側に塗ると、油の分子がラバーの分子と結合してテンションがかかり、反発力が強くなります。補助剤を塗りこんだラバーは打球のスピードや威力が増してスピンがかかりやすくなるだけではなく、表面が柔らかくなってボールコントロールも安定します。

 魔法のような液体なのですが、国際卓球連盟(ITTF)は補助剤の使用を明確に禁止しています。つまり、補助剤を塗り込んだラバーは“違法ラバー”です。

日本以外の国で、不正行為に手を染める選手が増え続けている。

 もちろん、僕たち日本選手は厳格にルールを守っています。ところが、日本以外の国では、この違法ラバーを使って国際大会に出場している選手がたくさんいるのです。これまでも何度かこの問題を指摘してきましたが、不正行為に手を染める選手は増え続けているのが現状です。

 僕は技術を磨くことで、こうしたルール違反をおかす選手たちに勝とうとしてきました。世界ランキング5位という地位を手にしたのはその勲章だと思っています。でも、ロンドン五輪が終わったあと、自分が今やるべきことに気づいたのです。

 10代の頃から「天才」と呼ばれ、全日本選手権で前人未踏の男子シングルス5連覇を達成した水谷隼が、年内に出場を予定していた国際大会への出場をキャンセルした。「選手生命をかけて」補助剤問題の実態を明らかにし、ルールの厳格化を世界中に訴えるためである。日本卓球界の至宝がさまざまなリスクと向き合いながら、それでも立ち上がった背景にはどんな葛藤と決断があったのだろうか。

【次ページ】 なぜ、補助剤が使用されるようになってしまったのか?

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