詳説日本野球研究BACK NUMBER
「ドクターK」「藤浪の恋女房」……。
夏の甲子園を盛り上げた下級生たち。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/25 08:01
大阪桐蔭のリードオフマンとして優勝に貢献した森友哉。大阪大会では打率5割5分6厘、甲子園でも4割を打ち、準々決勝の天理戦では先頭打者本塁打を放った。捕手としても抜群の強肩を誇り、2年生にして走攻守ともに超高校級の評価が高い。
松井裕樹の好投は、県大会を観ていれば十分予測できた。
今年の大会を盛り上げた最大の功労者は、1試合の奪三振記録を塗り替えた松井に間違いない。ちょっと偉そうなことを言わせてもらえば、松井の甲子園での好投は予想できた。
7月25日に行われた神奈川大会準々決勝、松井は強豪・横浜を3安打、3失点に抑え、完投している。この試合で猛威を振るったのが、甲子園でもお馴染になった縦に大きく割れるスライダーで、好打者・巧打者揃いの横浜ですら松井の縦割れスライダーに当たらない。
打てないのではない、バットに当たらなかったのだ。
このときの勢いのまま松井は神奈川大会を勝ち上がり、甲子園でも1回戦~準々決勝で22、19、12、15個と奪三振を積み上げた。それまでの1試合最多記録は'00年の坂元弥太郎(浦和学院)、'05年の辻内崇伸(大阪桐蔭)などの19個である。22奪三振の凄まじさが理解できると思う。大会通算記録83奪三振('58年/徳島商・板東英二)には迫れなかったが、通算68奪三振は板東、斎藤佑樹('06年/早稲田実)に次ぐ史上3位の記録。もし準決勝に進出していれば、板東の記録を抜いたかもしれない。ちなみに、奪三振率17.00は史上最高だった。
一番の注目選手は松井裕樹だが、森友哉の実力も捨てがたい。
このスライダーを際立たせているのが最速145キロのストレートである。スライダーを徹底的に警戒された3回戦の浦添商戦、松井は終盤の8、9回に6三振を奪っているが、そのうち4個はストレートが決め球で、8回などは8、9、1番を3者連続してストレートを空振りさせている。
ステップする方向に少し遅れて上半身がかぶさっていくような投球フォームで、体の早い開きがないからこういうフォームで投げることができる。当然、ボールの出所がわかりづらく、打者はボールが手許で伸びてくるような錯覚に陥る。浦添商の各打者が終盤、高めのボール球に再三手を出していたのは、そういうメカニズムが背景にある。
森友哉も負けていない。
知り合いのスカウトに「誰かいい野手いましたか」と聞くと、最初に出てきたのが森の名前である。上背のなさ(170センチ、78キロ)を意地悪く指摘しても「体重があるので走者に当たり負けしない」と問題にしていない。
捕手を評価するとき重要になるのが肩の強さ。
これはストップウォッチの計測でどの程度なのかわかる。2回戦の木更津総合戦ではイニング間(投球練習の最後に投げる二塁送球)の最速が1.88秒だった。及第点は2秒を切ることだから、1.88秒というタイムはプロでも一線級と言っていい。