野ボール横丁BACK NUMBER
強豪私学は公立高校に苦手意識が!?
甲子園、下克上のヒントを考える。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/28 10:30
熊本県屈指の公立進学校・済々黌は、鳴門戦、漫画「ドカベン」に登場したプレーを再現するなど頭を使ったプレーで勝利。3回戦では地元・大阪桐蔭戦をしのぐ大応援団で、優勝候補を相手に善戦した。
「野球がつまらなくなった」
今大会は、いろいろなところでそんな声が聞かれた。
つまり、潤沢な資金を持ち、全国から優秀な選手を集めてきている「強豪私学」に、小規模でやっているチームがどんなに知恵を絞ったところで、もはや太刀打ちはできない、と。
果たして、そうだろうか。
確かに、大阪桐蔭の「上限」が見えない大会だった。それぐらい危なげなく勝ち抜いてしまった。ただ、付け入る隙は、ないこともなかった。
意外なほど善戦したのが準決勝の明徳義塾だった。
「意外」と表現するには明徳義塾も全国に知れ渡った強豪私学だが、監督の馬淵史郎が「相手は横綱、こっちは前頭」と話していたように、今年の戦力を比較した場合、それは十分善戦といってよかった。
馬淵監督の“何とかして勝機を見出そうとする態度”。
明徳義塾の先発は右サイドの控え投手、福永智之だった。他に安定感抜群のエース・福丈幸、3回戦で好リリーフしていた岸潤一郎らもいたが、彼らはいずれもオーソドックスな右オーバーハンドだったからだ。
馬淵は試合開始のおよそ2時間前、こう語っていた。
「はまったときの勢いは福永がいちばん。球速は130キロ台やけど、真っ直ぐが、沈んだり、シュートしたり、スライドしたりする。福だったら10回やったら10回負けるけど、福永だったら10回やったら1回勝てるかもしらん。勝ちたいんやったら、そら福永ですよ」
馬淵は20年前の夏、星稜(石川)の主砲・松井秀喜を5連続敬遠させ非難を浴びた人物でもある。しかし、こうして可能性が低くとも何とかして勝機を見出そうとする態度は「結果はどうでもいい」と開き直る監督よりは、よっぽどスポーツマンに見える。
結局、福永は6回2死一、二塁から、2点タイムリー二塁打を打たれて降板したが、そこまで大阪桐蔭打線をわずか1点に抑えていた。
馬淵は、こう反省する。
「福永を引っ張り過ぎました。6回の頭から代えるべきか、悩んだんですけどね……。福永がよすぎたもんで、欲が出てしまった。あと、6回に福永がデッドボールを出して一、二塁になったでしょう。あそこも代えどきやった。でも、ツーアウトだったもんで、躊躇してしまいましたね」