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<日本一のアルパインクライマーが語る(2)> 山野井泰史 「一人で登る理由、幻覚との対話」 

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柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph byMiki Fukano

posted2012/08/09 06:00

<日本一のアルパインクライマーが語る(2)> 山野井泰史 「一人で登る理由、幻覚との対話」<Number Web> photograph by Miki Fukano

チョ・オユー南西壁、幻覚との対話。

――'94年にチョ・オユー(8201m)の南西壁で新ルートの単独初登に成功したときも、特殊な体験をしていますよね。ソロなのにもうひとり近くにクライマーがいるのを感じたと。

 たしかに人がいたような気配がしたんです。「こちらがずっと深い雪をラッセルしているのに、なんで後ろの人は交代してくれないのかな」と思って、しばらくして振り返ると、誰もいない。あるいは、テントを立てるときも、「反対側でポールを押さえてくれるとありがたいんだけど、なんで彼は手伝ってくれないのかな」と思ったりした。おかげで寂しさを感じなかったというのもあるんだけど、頂上近くになると消えました。

 8000mの低酸素状態だからそういう現象が起きるかというと、一概にそうでもない。ギャチュン・カンのときは6000mまで下りてきても、たくさんの幻覚の人物を見ていますから。チョ・オユーのときは色、形まではなくて、あくまで気配だったんですけど、ギャチュン・カンでは確かに人が見えたし、会話も何度もしている。オサマ・ビンラディンみたいな雰囲気の、長身で髭を生やした人でしたけどね。この人とは英語で話さなきゃいけないから、面倒くさいなあと考えたり、ほかの行動もちゃんとこなしています。装備を置いてきた場所に辿りつかなきゃとか、妙子はあっちから下りて来るはずだとか現実的な判断もしながら、同時に幻覚の人物ともしゃべっている。

――自分の頭がおかしくなったんじゃないかという怖さは感じませんでしたか。

 それはなかったですね。いてもそんなにいやなものではないです。そうした経験はその2回だけで、どうして現れたのかは分からないですけど、潜在能力を限界まで発揮しているときに感じやすいとは聞きますよね。

第3回「経験したことと、記録されたもの」は、テレビ取材を受け入れた理由、マナスルで体験した雪崩の恐怖、『凍』(沢木耕太郎・著)に描かれたことについてなど――。8月16日頃に公開予定です。

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