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日本のフェンシング文化も勢いづく?
男子団体が銀メダルを獲得した意義。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2012/08/09 12:55

日本のフェンシング文化も勢いづく?男子団体が銀メダルを獲得した意義。<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

団体戦のメンバーは、最前列中央の三宅諒、後列左から2人目の淡路卓、後列中央の千田健太、その横でウクライナ人のオレグ・マツェイチュク・コーチと肩を組む太田雄貴の4人。

 男子フルーレ団体で銀メダルを獲得したフェンシング。日本フェンシング界にとっては2大会連続のメダルとなり、安定的な強化が行なわれていることをうかがわせた。

 記者会見場に登場したメダル獲得の「4騎士」は、とりあえずは喜びをかみしめて、それぞれが次のステップへ向かおう――そうした清々しさを感じさせた。

 フェンシング界にとっては、「値千金」の銀メダルだったと思う。

 競技団体には失礼を承知で書くが、フェンシングに限らず、いわゆるマイナー競技とされるスポーツはオリンピックに出られるかどうかは死活問題だ。出る、出ないによって報道される量がまったく違うし、それがメダル獲得となると飛躍的に注目度が上がり、それが次のオリンピックまでの4年間、継続していくのだ。

 ずっとフェンシングの第一人者として牽引してきた太田雄貴が、日本のフェンシング界が置かれている状況を語る。

「僕が北京でメダルを取ったあとも、『ルールがわかりにくい』といった声を聞きましたし、そうした部分で普及活動が思うようにいかない面もありました。ただ、今回の団体での銀メダル獲得で、またフェンシングを知ってもらえる機会が増えたと考えたいと思います」

 北京五輪の時より試合の魅力をもっと知って欲しい、というのが素直な気持ちなのだろう。

日本でフェンシングのスター選手が育つ余地はあるのか?

 ロンドンの試合会場では、観客の理解度の高さに舌を巻いた。詳しい、というわけではないが、試合のどの部分を楽しめばいいのか、観客が知っている。

 それは各国にトップフェンサーがいて、テレビなどでフェンシングに触れる機会が多いからだと思う。

 特にイタリアは男女ともに強さを見せつけたが、女子フルーレ団体の4選手は、その美貌も手伝って「フェンシング界のドリームチーム」と呼ばれている。残念だが、日本はスターが育つまでの土壌はない。ヨーロッパ、そして東アジアのライバルたちの強化体制は日本の比ではない。

 太田が続ける。

「現状ではイタリア、韓国、中国、フランスに遅れをとっているのは紛れもない事実なので、JISS(国立スポーツ科学センター)に頼り切っている今の状況ではなく、競技団体がしっかりとした施設を持つことも大切かと思います」

 フェンシングは北京オリンピックの前から、東京・西が丘にあるJISSを強化の拠点としてきた。JISSは様々な競技団体が、トレーニングを行なう施設。マラソンの藤原新もケガで苦しんでいたとき、この施設でリハビリに励んだ。

 しかしトップ選手の強化のために、自前の施設を持つのは各競技団体の夢。常にフェンシングに触れられる場があれば、強化だけでなく、普及の面にも大きな力を持つ。

【次ページ】 フェンシング界が取り組む、競技人口の確保の方法とは?

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