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本物の強さを証明した柏がJ1初制覇!
名古屋、G大阪の戦い方と徹底比較。 

text by

猪狩真一

猪狩真一Shinichi Igari

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photograph byToshiya Kondo

posted2011/12/05 12:15

本物の強さを証明した柏がJ1初制覇!名古屋、G大阪の戦い方と徹底比較。<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

「2年間ついてきてくれた選手に心から感謝したい。そしておめでとうと言いたい。シーズンでやってきたことを今日も出してくれた」。優勝の記者会見でも、最後まで選手を褒め称えていたネルシーニョ監督

ネルシーニョ監督が2年間で着実に積み上げてきたもの。

 一昨年('09年)の夏、J2降格の危機に際してシーズン半ばに招聘されたネルシーニョ監督は、まず守備の安定を図ることから手をつけた。J1残留のために多くの勝利を積み上げなければならないことを考えると、傍目にもそのアプローチはもどかしく映り、実際、J1残留も果たせなかった。だが、優勝を決めた最終節・浦和戦後の会見で、ネルシーニョ監督が「J2に落ちる前の('09年の最後の)4試合ぐらいでもいい形は出せていた」と振り返ったように、現在のチームのベース作りは2年前の残留争いから始まっていた。

 今年の柏の失点数は42。特別に少ない数字ではないが、その中身を見てみると、自陣でボールを奪われてのショートカウンターとセットプレーが大半で、ポゼッションからボールをつながれての失点は非常に少ない。それは、柏の選手たちの守備時のポジショニング、選手間の距離がどれだけ適切なものかを示している。彼らの最大の武器は、2年間にわたって培われてきた卓越した戦術理解とコンビネーションの精度にある。

 攻撃面でも同じことが言える。前半戦の柏は、右サイドバックの酒井宏樹のクロスを北嶋秀朗がニアで合わせるというゴールに代表されるように、レアンドロ・ドミンゲスと酒井が組んだ右サイドからのクロスでゴールを量産したが、現代サッカーでこれほどクロスから点を取れるチームは珍しい。それは、受け手と出し手の完璧なシンクロ、動き出しの質とキックの精度によって相手守備陣を出し抜いているからだ。

 さらに後半戦では、新戦力であるジョルジ・ワグネルと橋本和が組んだ左サイドのコンビネーションやポゼッションからの中央突破と、右サイド頼みだった前半戦とは見違えるように攻撃パターンを倍増させた。彼らは、守備組織の構築から始まったベース作りのなかで、手持ちの武器をひとつひとつ完璧に仕上げながら、次は左サイドの連係、次は中央突破というように“違い”を生み出せる武器を増やしていったのだ。

柏はJ2時代のチーム力のままJ1を制したわけではない。

 中盤戦以降の柏は、新加入選手を含めた選手個々の能力でも、攻守両面での連係の精度でも、そして攻撃のバリエーションでも、昨年のJ2時代や今年の序盤のチームとはレベルが違ってきたように筆者には感じられた。J1昇格1年目での優勝という事実に嘘はないが、だからと言って、J2時代のチーム力のままJ1を制したわけでもない。シーズンのなかで、恐ろしいほど順調に右肩上がりの進歩を遂げながら頂点へと辿り着いたのだ。

 勝点3を奪うために何を強みとするかという方法論において、名古屋、G大阪との間に明確な差はなかっただろう。しかしその2チームが、自分たちの現状に即した戦い方を選択したのに対し、柏はこの1年間、自分たちがやれることの幅を広げ続けてきたように思える。それが、柏の優勝を素直に受け止め、賞賛を送りたくなる理由のひとつだ。

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