プロ野球亭日乗BACK NUMBER
坂本勇人に漂う清原和博の“匂い”。
~高卒選手がプロで活躍する条件~
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/07/17 11:30
今季4月は打率.376と絶好調だった坂本は、5月に入ると打順も1番に昇格。現在も中日・井端らと首位打者争いを演じている。
高卒1、2年目で頭角を現わす打者の特長は何なのか?
「変化球が打てるかどうかやな」
楽天・野村克也監督の論だ。
高校野球からプロの世界に足を踏み入れた打者は、同じ野球でも隔絶した世界を痛感する。その最大の壁が実は、よく言われるスピードの違いではなく変化球だという。
「変化球の打ち方は選手の持って生まれた感覚。変化球打ちのための方法論は教えられても、最後に打てるかどうかは本人のセンスや。教えて教えられるものではない。だからセンスのない選手は、プロの変化球に慣れるのに数年は苦労するもんや」
野村監督の論の根拠だった。
カーブを弾き返し、プロの壁を突き破った清原。
高卒の選手が初めて一流のプロの変化球を見ると「ボールが消える」という。いつまでたっても変化球にバットがクルクル回る選手も多い。
だが、その中である特別な選手だけは、その壁をいともあっさりと乗り越えてしまう。ほんの一握り、いやもっとレアな選手だけが持つ特別なセンス。その変化球を打つ特別なセンスこそ、高卒でいきなり活躍できるバッターの必要条件となるわけだ。
近年、ずば抜けた変化球打ちの才能を持っていたのは、PL学園から西武に入団した清原和博内野手(現評論家)だった。
清原というと、真っ向勝負のストレートを並外れたパワーで打ち返すというイメージが強い。変化球でかわされるとモロさをみせるように思われがちだが、実はカーブ打ちの名手だった。
「入ってきたときから、肩が開かずに一呼吸ためてボールをしばく。そのタイミングは天性のものだった」
恩師でもある元西武打撃コーチの土井正博(現評論家)はこう語っている。その結果、1年目から打率3割4厘、31本塁打という並外れた数字に結びついたわけだった。
原監督も認めた坂本の「実戦力」。
そしてもう一人、変化球打ちのセンスに「なるほど」と思わせたのが光星学院から入団し、プロ2年目だった去年の巨人・坂本勇人内野手だ。
真っ直ぐには少し詰まったが、変化球に崩されずについていく。原辰徳監督をして「実戦力のあるバッティング」と言わしめたセンスが、そこにあった。
だが、去年の坂本の打撃には大きな欠点もあった。ボールを引きつけるポイントが後ろにあるが、スイングがついてこなかった点だ。独特のタイミングでボールを捕らえるセンスはあるが、まだスイングスピードがついてきていなかった。最初は手探りの敵バッテリーは、普通の若い選手と同じように変化球を中心にして坂本を攻めた。しかし、実は速い球こそ坂本封じの決め手だったのだ。その点を分析された8月以降はがっくり成績も落ちていった。