オフサイド・トリップBACK NUMBER
最新トレンドは「ポジションレス」!?
CL決勝にみる、バルサ究極の進化形。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/06/12 08:00
左右のMFとしてプレーしたマイケル・キャリックとパク・チソンを翻弄するメッシ。類まれな俊敏性と自在なポジションどりで、マンUの布陣を切り裂いた
大方の予想通り、今季のCLファイナルはバルサの勝利で幕を閉じた。ゲームの内容、戦術の進化などについて、さまざまな人が2年前のファイナルと比較しているが、僕の頭に真っ先に浮かんだキーワードは“レス”だった。
2年前のCLファイナル、バルサの鍵を握っていたのはメッシの動きだ。
バルサのフォーメーションは4-3-3。メッシは右のウィングとして先発するが、程なくしてCFのエトオと入れ替わる。いわゆるゼロトップ(本来、CFタイプではない選手が、CFのポジションでプレーする状態)である。
だが本当の焦眉はここから。メッシはCFの位置からさらに攻撃的MFのような位置にまで下がり自由に動き始めた。
破壊力は凄まじかった。マンUはただでさえ中盤で劣勢に立たされていたが、メッシが下がってきたことで、ますます数的不利な状態に追い込まれてしまう。攻撃の糸口が見いだせなくなったのは言わずもがな、自陣前ではビディッチ&ファーディナンドがマークすべき相手を失ったため、チーム全体としての守備のメカニズムにも狂いが生じていった。
しかもメッシは、下がり目の位置にいるだけでなく、当然のようにボックス内にもどんどん侵入してチャンスに絡んでくる。中盤でゲームを組み立てられない状況を、FWを4枚並べることで打開しようとしたマンUの拙攻にも助けられたとはいえ、メッシのゼロトップこそがバルサ勝利の肝となったことは言うまでもない。
ローマで偶発的にうまれ、欧州を席巻した「ゼロトップ」の潮流。
ただし僕自身は、2年前のCLファイナルにおけるメッシのポジション取りや動き方を見てもまったく驚かなかった。
ゼロトップが新たなトレンドになるであろうことは、すでに2007年の4月、バルサがCLを制する、はるか2年も前にNumberWebの記事で指摘していたからだ。
詳しくは拙著「そしてセンターフォワードはいなくなった」を読んでもらえればと思うが、ローマで偶発的に始まった戦術の革新はマンUへも伝播し(マンUがローマを意識してゼロトップ的な4-2-3-1を使い始めたのは、CLにおけるローマ戦からだった)、さらには他のチームも巻き込み一大潮流となっていった。
ちなみに記事中では「ゼロトップ」ではなく、あえて「トップレス」という言葉を使った。それはトップレス(ゼロトップ)にすることが、ひいてはFWやMFが渾然一体となってチャンスを狙う「トップフル」の状態をもたらすというイメージを抱いていたためだ。
当時はローマで密かに起きていた変化に着目していた人など誰もいなかったし、「トップレス」や「ゼロトップ」などと口にしても首を傾げられる事のほうが圧倒的に多かったが、結果的には自分が予想した通りの方向にサッカーは進化していった。それが非常に分かりやすい形で現れたのが、バルサとマンUが戦った2年前のCLファイナルだったと言ってもいい。