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「マスコミの方はノーサインと言っていますが」“ナゾのエナジック”攻略も…名門・智弁和歌山のホンネ「点差以上にしんどい」「ウチでは難しい」
posted2025/03/26 07:45

機動力とノーサイン野球で甲子園に驚きをもたらしたエナジックスポーツ。名門・智弁和歌山の目にはどう映った?
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間淳Jun Aida
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JIJI PRESS
マスコミの方はノーサインと言っていますが
報道陣が最も聞きたい質問を予想して先手を打った。
「打つだけではなく、しっかりとバントも決まりましたね?」
お立ち台で問いかけられた智弁和歌山・中谷仁監督は少し笑みを浮かべた。
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「しっかりサインを出して、バントを決めてくれました」
しっかりサインを出して――。野球の監督としては当たり前の行動をあえて強調した。そして、次の質問では予想通り「エナジックスポーツのノーサイン野球」についてたずねられた。
「マスコミの方はノーサインと言っていますが、向こうの監督さんがサインを出していても、僕らはどんな攻撃をしてくるのか分かりません。何をしてくるか分からないという点では相手チームにサインがあってもなくても変わりませんが、よく動いてくるチームでした」
エナジックスポーツは今大会で最も注目されたチームとも言える。最大の特徴は、監督が選手に一切サインを出さない「ノーサイン野球」。サインが基本となる高校野球の常識を覆し、創部わずか3年目で甲子園出場を決めた。
“未知”の相手との対戦。智弁和歌山は自分たちのペースを乱されないため、先制点を普段以上に重視した。1回表の攻撃。エナジックスポーツバッテリーの心を読んで先手を打つ。
1番打者の藤田一波選手が安打で出塁すると、犠打で二塁へ進塁した。次の打者の2球目。藤田は迷わずに三塁へスタートを切る。相手投手のモーションを完璧に盗み、捕手は三塁に送球さえできなかった。同じ3番打者の内野ゴロの間に生還して先制点を奪った。
中谷監督が試合後、「あの三盗は大きかったですね。相手に先制されると伸び伸び攻撃されてしまいますから」と話したプレー。藤田が振り返る。
「常に投手の分析をしてデータを取っていました。相手投手のけん制にはパターンが2つありました。2球目はけん制がこないと確信してスタートしました。チームとしてこだわっていた先制点につながってよかったです」
点差以上にしんどいゲームでした
智弁和歌山は相手に隙を見せないよう、チャンスを確実に得点につなげていく。
1回から4回まで毎回得点を重ね、6点リードの7回には犠打を絡めて1点を加えた。中谷監督が試合を回想する。