炎の一筆入魂BACK NUMBER
「格好いいな、あの野郎ってね」金本、江藤、黒田、丸…数々の名選手を発掘した広島の生ける伝説・苑田聡彦のスカウト哲学
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byAsahi Shimbun
posted2024/12/30 06:02
2024年10月、神宮球場のバックネット裏で東京六大学の試合を見る苑田氏
惚れ込んだ選手たちとの出会いは、今でも鮮明に覚えている。関東高の江藤智はインサイドアウトのスイングから中堅方向に伸びる打球が魅力的だった。東北福祉大の金本知憲のリストの強い打撃に衝撃を受けた。水戸短大附高(現・水戸啓明高)の會澤翼は勝気な性格が好印象で、ひたちなか市民球場で放った右中間席へのホームランを評価した。投手としても評価されていた千葉経済大附高の丸佳浩を早い段階から打者として追いかけた。手首が柔らかくフォロースイングが大きかった。
「いいと思ったらとことん行く。惚れるんじゃなく、惚れ込まないといけない」
黒田博樹との出会いは偶然だった。当時、東都リーグ2部だった専修大学の練習場に目当ての選手を見に行ったとき、遠くを歩くひとりの選手に苑田の目はくぎ付けとなった。
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「遠くから見ても『格好いいな、あの野郎』ってね。ピッチングを見ても球が強いし、目力もいい。後光が差すって言うけど、黒田には後光が差しているように見えた」
当時の黒田はまだ2年生の控え投手のひとりで、公式戦での登板もほとんどなかった。関係者から情報を集めると、高校時代は控え投手だったことも分かった。だが、自分の直感を信じ、苑田は何度もグラウンドに足を運んだ。
惚れ込んだ無名投手は3年秋にチームを1部昇格に導き、4年時にはプロが注目する投手に成長した。資金面で劣る広島にとって逆風だった逆指名制度の時代に黒田を振り向かせられたのは、苑田の誠意があったからだ。それは9球団からのオファーの中、広島入りを決めた苑田の若き日を彷彿させる決断だった。
スカウトの喜び
惚れた選手をみな、広島に入団させられたわけではない。抽選で外したり、指名順の巡り合わせなどで獲得できなかったりした選手もいる。そんな選手にもドラフト後には電話を入れた。
「球団は違うけど、俺は高く評価していたから。(獲得された)スカウトの話をよく聞いて1日でも早く契約して、けがをせずに頑張れよってね」
広島を戦力外となった選手のため、伝手のある球団に移籍の可能性を探ったこともある。結果、現役続行がかなわなくても、選手はユニホームを脱ぐ決意を固められる。惚れた選手に指名順位もプロでの成績も関係ない。
「スカウトとしては、選手がけがをすることなく、野球をやっていることが一番の喜び。タイトルを取ったり、活躍したりしてもうれしい思いはあるけど、何より元気にやってくれたらいい」
61年前に縁あって広島に入団し、14年の現役生活を経て、スカウトとして47年。多くの選手との縁を結んできた。選手に惚れてきた名スカウトが、後輩に未来を託し、第一線から退く。