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「悔いなく終われた」先発一筋13年でついに引退を迎えたカープ野村祐輔の信念と、後輩たちが語った凄み《デビュー以来211試合連続先発登板》
posted2024/10/08 11:04
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
すがすがしい表情で最後のマウンドを降りた。
10月5日、マツダスタジアムでの今季最終戦は野村祐輔にとっての引退試合となった。試合前の会見、練習、そして登板から試合後のセレモニーまで、涙は一切なし。広島一筋、先発一筋を貫いたプロ野球人生だった。
入団以来、広島でともに先発の柱を担ってきた前田健太、黒田博樹、大瀬良大地、九里亜蓮、床田寛樹、森下暢仁らはみな身長180センチを超える中、野村は177センチ。その体を目いっぱい使って投げてきた。
右足でプレートを踏み、両手を上げてから左足を上げ、下半身にためたエネルギーを解放するように鋭く回転させて右腕を振る──。限られた動作の中で「体を大きく使う」意識をたたき込んできた。
打者を圧倒する剛速球があるわけではない。ただ、球質に速さはなくても、強さは出せる。コントロールの精度にもこだわり続けた。
入団時140キロ台半ばだった球速は度重なるケガもあり、近年は最速140キロに満たない登板もあった。一方でフォームの精巧さは年々増していった。一朝一夕でつくり上げられるものではない。シーズンになれば、体の状態も日によって変わる。だからこそ、1日たりとも気を抜けなかった。
「13年間やらせていただいて、準備をすることがとても大事だと一番思った。そこを怠らずにやっていけば、長く野球を続けられると信念を持ってやることができました」
黒田博樹に憧れて
きっかけを与えてくれたのは、入団4年目の2015年に広島に復帰した黒田(現・球団アドバイザー)だった。野球に取り組む姿勢はそれまでの自分とは雲泥の差があった。登板日から逆算して考えられた調整に、徹底されたルーティン。登板2日前になると、周囲にも伝わるほどに闘争心を高めていた。
「僕はこんなもんじゃダメだなと気づかせてくださった。黒田さんのような投手になりたいという思いで今日まで続けられました」
野村は翌16年にキャリアハイの16勝をマーク。最多勝と最高勝率のタイトルを獲得し、リーグ優勝に大きく貢献した。9勝にとどまった17年もカード初戦を任され、各チームの主戦と投げ合ってきた。