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「挑発的だが、政策は日本と比較できる」スペインでもフランスでもなく…トルシエが“W杯4強→パリ五輪銅メダル”モロッコに熱視線のワケ
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Nakachi/JMPA
posted2024/08/26 17:03
パリ五輪男子サッカー、スペインvs日本。個の力について語ったトルシエが、銅メダルのモロッコから見出した日本との共通点とは
「モロッコは2030年W杯の開催国でもある。モロッコの野心と若い世代へ大きな影響を与える波を、ここでも見て取ることができた。W杯とこの五輪の結果を受けて、彼らは自分たちの立ち位置に自信を持った。W杯も自信を持って開催できると。そうしたキャラクター、アイデンティティをモロッコから感じ取ることができた。
そこが西アフリカ諸国との大きな違いで、西アフリカには確固としたキャラクターはない。彼らは今日も、植民地時代から続く歴史の支配下にあるからだ。旧宗主国との強い絆が今も厳然と存在する。その分、アイデンティティも独立性も希薄であるといえる。マグレブ諸国は違う。モロッコにはアイデンティティと独立の意識、強いキャラクターが感じられるが、西アフリカ諸国は今も植民地時代の繋がりにとらわれている。完全な独立意識を確立したようには見えない」
モロッコの国内政策は日本のそれと比較できる
――ずっと以前になりますが、1996年アトランタ五輪でヌワンコ・カヌーのナイジェリアが、2000年シドニー五輪でパトリック・エムボマ、サミュエル・エトーのカメルーンが金メダルと獲ったときと、今日のモロッコやエジプトでは何が異なりますか。
「当時のカメルーンやナイジェリアも、すでに80%の選手がヨーロッパのクラブに所属していた。ヨーロッパに向けての窓は開かれていたとはいえ、まだまだ小さかった。ただ、その後アフリカ諸国全体が努力をして、セネガルやコートジボワールにも窓が開かれた。そして今日、アフリカは多大な進化を遂げたが、特にモロッコはそれが顕著だ。モロッコはまず国内で進化し、国内サッカーのレベルを上げた。それに対してナイジェリアやセネガル、コートジボワールなどは、国内における進化の割合は小さかった」
――強大な権力者に頼るなど、たしかに基盤は脆弱です。
「モロッコは違う。モロッコの国内政策は日本のそれと比較できるほどのものだ。日本サッカーの推進力は、国内における育成政策だ。モロッコは海を挟んでヨーロッパと向かい合っている。対岸にはスペインがあり、影響は恐らく大きい。もちろんスペインばかりでなく、代表選手のほとんどはヨーロッパでプレーしている」
ちょっと挑発的だが…今、もの凄く進化した
――たしかに今回の五輪でも、PSG所属でカタールW杯の躍進に貢献したアクラフ・ハキミをオーバーエイジで招集しただけでなく、リーグアンやラ・リーガなど欧州各国のクラブに所属する選手が多かったです。