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「日本は個の力がとても弱かった」トルシエが嘆くパリ五輪金スペインとの“決定的な差”「コレクティブは同じだ。ただ残念だが決定機を…」
posted2024/08/26 17:02
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Nakachi/JMPA
パリ五輪男子サッカーは、1984年ロサンゼルス五輪以来40年ぶりの優勝を目指した地元フランスを、延長の末5−3で下したスペインが、92年バルセロナ五輪以来となる2度目の優勝を遂げて幕を閉じた。
フィリップ・トルシエは、スタジアムにこそ足を運ばなかったものの、多くの試合をテレビ観戦し、U-23世代のサッカーの動向に注目した。日本に勝利したスペインとフランスとの壮絶な決勝、モロッコ、エジプトという北アフリカ諸国(マグレブ諸国)の躍進、準々決勝でスペインに敗れ、またも悲願のメダルを獲得できずに終わった日本……。様々なテーマを、トルシエは独自の視点で分析し総括した。
トルシエには決勝の翌々日に電話で話を聞いた。そのインタビューを、全3回にわたってお届けする。<全3回の1回目>
スペインにはコレクティブなアプローチがあった
――五輪サッカーの男子決勝はフランス対スペインになりました。
「素晴らしい試合だったが、シナリオはちょっと特殊だった。というのもフランスは3失点を喫してハンディキャップを背負い、後半はすべての力を出し切ってスペインに立ち向かわねばならなかったからだ(註:フランスは前半11分に先制したものの、18分、25分、28分と次々に失点を喫し、以降は追いかける展開となった)。
フランスにはフィジカル面での強い意志があり、力強さ、個の強さでの意志を前面に押し出した。威厳が感じられるほどの個の強さと意志だった。とにかく前へと進む。それも精神的な力の強さで。コレクティブな強さではなく、そこにあったのは選手個々の個の強さでありフィジカルの強さでありメンタルの強さだった。何があってもボールを前に運ぶというチャレンジだった。
――たしかに闘志をむき出しにしていました。
「加えて多少の運にも恵まれた。フリーキックは幸運な軌道を描いて得点(79分)となり、それが観客の熱狂的な雰囲気を増幅させた。つまり後半に関しては、戦術よりも精神面が前面に出た戦いだった。またフランスは、FKやPK(90+3分)をうまく利用した。どちらも運と精神面に属する部分のことだった。
ただ最終的に勝負を決めたのは、サッカーの価値に於ける戦い、コレクティブな面での戦いだった。フランスとスペインを比較したとき、スペインにはコレクティブなアプローチがあり、個のアプロ—チを上回っていた。フランスが選手の個の力をベースにしていたのに対し、スペインはプレーのコンセプト、コレクティブな力をベースにしていた」
スペインはW杯日本戦の敗戦から立ち直った
――その質の違いは明らかでした。