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日本選手権「2年連続二冠」でも…遠かった五輪の舞台 それでも“遅咲きのスプリント女王”君嶋愛梨沙(28歳)が目指す「10秒台の世界」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/09 11:30
陸上日本選手権で2年連続の100m・200m二冠に輝いた君嶋愛梨沙(土木管理総合)。一方で目標に掲げた五輪標準記録には届かなかった
その言葉には、パリ五輪を逃してもなお、「世界の準決勝、決勝の舞台で戦う」との強い覚悟が滲む。君嶋は2022年、日本選手権で初優勝した際のインタビューで「10秒台を目指す」と公言。日本人女子として未知の領域に目標を置くことについての思いも語った。
「現状は11秒3台から抜け出せていないですし、『あいつ何言ってんだ』と思われるだろうけれど、達成できるかどうか、手応えがあるかどうかではなく、『自分がどこを目指しているのか』で日頃のトレーニングやモチベーションは変わってくるのかなと思っています」
五輪や世界選手権のたびに代表争いが白熱する男子短距離に比べて、女子は2016年のリオ五輪に日本記録保持者の福島千里が出場して以来、主要な世界大会に代表を送り込めていなかった。だが、君嶋はブダペストでその重い扉を開いた。追加での選出ではあったが、それは「現実的ではない」と思われようとも、10秒台というタイムを意識して取り組んできたことのひとつの表れではないだろうか。
「世界には30代後半でトップの選手もいる」
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昨年秋と今年1月には短距離王国・ジャマイカでの単身武者修行を敢行。「周りからマリファナみたいなニオイがして大丈夫かなあと思ったり、ご飯どうしようかなと困ったり」と冗談めかして笑いつつも、現地のトレーニング、貧困から抜け出すために代表を目指すという選手たちの覚悟を肌で感じ取り、刺激を受けた。その成果は、この先の走りで見せていくつもりだ。
「パリを自力で掴めなかったという悔しさもあるのですが、大変だった時期を乗り越えて、『オリンピック駄目だったね』と言ってもらえる選手になれたのは大きな変化だと思います。
4年後のロスは32歳、8年後のブリスベンは36歳で迎えることになりますが、世界には30代後半でトップの選手もたくさんいるので、息の長い選手として頑張っていきます」
大きな浮き沈みを経たからこそ、壁にぶつかっても簡単にめげない強さはある。国内女子スプリントをリードする28歳の、ふたたび五輪の扉に挑む4年間が始まる。