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日本選手権「2年連続二冠」でも…遠かった五輪の舞台 それでも“遅咲きのスプリント女王”君嶋愛梨沙(28歳)が目指す「10秒台の世界」
posted2024/07/09 11:30
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by
Asami Enomoto
女王の貫禄勝ちだった。
新潟で行われていた陸上の日本選手権。女子100m決勝は、好スタートを切った君嶋愛梨沙(土木管理総合)が中盤過ぎから加速していき、真っ先にフィニッシュラインを駆け抜けた。
ゴールタイムは11秒46(-0.5)。この種目で3連覇を達成するも、パリ五輪の参加標準記録(11秒07)には届かなかった。
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「オリンピックを狙っていたので、タイムを見て『ああ、駄目だったなあ』というのが正直な気持ちです。でも4年前、このスタジアムで準決勝落ちだったことを考えれば、いま3連覇できているのは一つの成長だなと実感しています」
100mは3連覇…でも五輪の舞台は遠く
レース後、君嶋は3連覇を達成した喜びと、五輪の切符を逃した悔しさが入り混じる表情で、こう振り返った。
今や国内女子スプリンターの代表格である彼女だが、実は「日本一」の称号を手にしたのは、26歳で迎えた2022年の同大会が初めて。表彰台の一番上に立つまでには、長い紆余曲折があった。
君嶋は、桐生祥秀(日本生命)や男子200m中学記録保持者の日吉克実、女子100m高校記録保持者の土井杏南(JAL)ら中高時代から飛びぬけた実績を残す「95年世代」の一人。山口・麻里布中で陸上を始め、2年時に全中200mで24秒36の中学記録(当時)を叩き出し、一躍その名を全国に馳せた。
だが、中学卒業以降は怪我に悩み、苦難が続いた。
陸上の名門・埼玉栄高に進学したが、左脚の痛みを抱え、1年の冬に舟状骨の疲労骨折が判明。リハビリ生活は長引き、個人でインターハイに出場することすら叶わなかった。
そのブランクは大きく、進学先の日体大でも伸び悩んだ。一方、大学3年の夏からボブスレーとの二刀流に挑戦。スプリント力などが評価されトライアウトに合格し、日本代表として初出場したヨーロッパカップで優勝。世界選手権では日本男女初の7位入賞という快挙を遂げている。