陸上では怪我に苦しみ、伸び悩む一方、ボブスレーでは「JAPAN」を背負うことができる。それでも、君嶋の主軸はあくまで陸上だった。世界選手権から3カ月後、大学4年の関東インカレで中学3年以来7年ぶりの11秒台をマークして優勝。日体大大学院を経て今後の進路を考える際も、陸上を辞めるという選択肢はなかったという。

　社会人1年目の2020年、同じく新潟で行われた日本選手権は11秒92（－1.3）で敗退。東京五輪の選考を兼ねた21年大会は11秒86（－1.9）で5位。そして22年、11秒36（＋0.6）、日本歴代4位タイ（当時）のタイムで優勝をつかみ、オレゴン世界選手権4×100mリレーのメンバーに選出。2走を担い、11年ぶりの日本記録更新に貢献した。

2022年に100ｍで日本選手権初優勝。女子スプリンターには珍しい26歳の遅咲きだった　©JIJI PRESS

ブダペスト世陸では日本勢として4大会ぶりの代表に

　昨年の日本選手権は100m（11秒59）、200m（23秒17）の二冠を達成。ブダペスト世界選手権の参加標準記録（11秒08）には届かず、ワールドランキングのターゲットナンバーの圏外にいたが、上位に辞退者が出たことで、日本勢４大会ぶりの女子100m出場を果たしている。

　ただ、今季は怪我により、パリ五輪の出場国選考を兼ねた世界リレーの代表をやむなく辞退。日本代表は、日本歴代6位の43秒63と健闘したものの出場権を得ることはできなかった。

　個人種目の100mでワールドランキングによる出場権を得るには56位がボーダーラインで、6月下旬時点での君嶋は71位。そのため、今回の日本選手権は、参加標準記録を狙うことが最大のミッションだったのだ。

©Asami Enomoto

　国内ではトップクラスの実力を誇るが、それでも届かなかった五輪の切符。100m決勝の2日後、200m決勝の後にはこんな複雑な心境も吐露していた。

「正直に言うと、昨日ハードルの福部選手がパリ五輪の標準記録を切ったことで、けっこう泣いてしまったんです。それはうれし泣きでもあるのですが、なんで自分はできないんだろう、なんで五輪に届かないんだろうっていう気持ちもあって」

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