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「南野拓実を外して堂安律…戦略自体は変わらない」トルシエがホンネで語る“日本代表・失敗の本質”「アジア杯まではよく機能していたが」
posted2024/02/26 17:30
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Getty Images/Kiichi Matsumoto
ベトナム代表監督としてアジアカップに参加し、大会初戦で日本と対戦したフィリップ・トルシエは、優勝候補ナンバーワンとの高い前評判を得ながら準々決勝で敗退した日本代表をどう見たのか。何が敗因で、森保一監督が率いる日本が2026年の北中米W杯でベスト8以上を目指すには何が足りないのか。
カタールがヨルダンを下してアジアカップ連覇を成し遂げた日の3日後、モロッコの自宅で束の間の休日を過ごすトルシエに電話で話を聞いた。トルシエが見た日本代表の問題点とは。単独インタビュー、まずは第1回から(全3回/第2回、第3回も)。
森保もクリンスマンも、コレクティブさではさほど…
――日本代表の戦いぶりをどう見ていましたか?
「サッカーにはふたつの戦略がある。ひとつは選手の個の能力に依拠した戦略だ。選手は自分の役割を担う。それぞれにポジションを与えられるが、目的は選手が自己を表現すること――最大限の力を発揮して個の能力を表現することだ。
もうひとつの戦略は、選手にコレクティブな役割に従うことを求める。攻守においてパートナーとの連係を築きながら、連動性と流動性のある組織的な仕事だ。ひとつの例をあげれば、私に関しては個の能力に依拠した戦略では不十分だ。というのも、ベトナムの選手は能力、経験やフィジカルの欠如などで他よりもレベルが劣っているから。だから私はコレクティブな戦略を実践し、選手にコレクティブな仕事を要求した。
監督が重要なのは、第一に心理的な側面においてだ。森保やクリンスマン(韓国代表前監督)のように、ビッグクラブに所属する選手を抱えている監督は、個の力に依拠した戦略を持っている。選手が監督を信頼できる雰囲気を作り出し、選手に信頼を寄せ、与えた役割のなかで個々に力を尽くすよう求める。
だが森保もクリンスマンも、コレクティブな面では選手にさほど要求はしないだろう。というのも日本や韓国のようなアジアの大国では、選手のステイタスはとても高い。ときに監督は偉大な選手のステイタスの虜になり、選手にコレクティブな要求を求め難くなる。
私は違う。君は私のやり方をよく知っていると思うが、私は高いステイタスを持った選手と仕事をする際にはそのステイタスを無化し、裸の状態にしようとする。彼らにもコレクティブな仕事をするように求める。私にとってコレクティブな仕事は、選手個々の価値よりもずっと大切だ」
〈筆者註:コレクティブという言葉を日本で最初に用いたのは、筆者の知る限り名古屋グランパス監督時代のアーセン・ベンゲルである。ACミランのビデオを選手たちに見せたベンゲルは、選手たちが同じ理念のもとに連動性を保ちながら組織的かつ流動的にプレーするスタイルをコレクティブなスタイルと呼んだ〉
カタールやヨルダン、日本と韓国で何が違う?
――しかしアジアカップで活躍が目立った国々……決勝に残ったカタールにしろヨルダンにしろ、とりわけ攻撃に関しては個に依拠した戦略を実践していませんでしたか?