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「南野拓実を外して堂安律…戦略自体は変わらない」トルシエがホンネで語る“日本代表・失敗の本質”「アジア杯まではよく機能していたが」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images/Kiichi Matsumoto
posted2024/02/26 17:30
ベトナム代表監督として日本代表と対峙したトルシエは、森保ジャパンの現状をどう見たか
「そうだが、理解すべきはヨルダンもカタールも新しい監督で大会に臨んだことだ。カタールの監督(バルトロメ・マルケス)が就任したのは大会の3週間前で、ヨルダンの監督(フセイン・アムータ)は6カ月前に仕事に就いた。時間的な制約がある上に、ふたりはともに外国人だ(アムータはモロッコ、マルケスはスペイン)。彼らは選手の声をよく聞き、適切な規律をチームに与えたが、コレクティブな戦略を実践するまでには至らなかった。
もうひとつの重要な要素は、どちらも選手のほとんどが地元クラブに所属していたことだ。カタールは地元の選手ばかりだし、ヨルダンにしても国外はサウジアラビアやカタールなどアラブ諸国ばかりでほぼ地元といえる。ひとつのアドバンテージでチームの統一感は保たれており、内部に軋轢が生じることがない。
ところが日本や韓国は、選手の大半がヨーロッパのクラブに所属している。だから、クラブの利益との間に軋轢が生じる。ヨーロッパのリーグは大会期間中も中断しないので、利害の対立は常に生じている。そのうえ監督のマネジメントも個の力に依拠するから、しばしばチームの統一感や戦略、方向性を損なう。
だが、いわゆる小国には確たる統一感がある。新しい監督のもとに戦略や方向性がある。それが大国との違いだ」
日本がベトナムと対戦する時に“懸念”となるものとは
――モチベーションの問題もそこから生じているのでしょうか?
「そうだ。チーム内に軋轢がなければモチベーションは……そこには競争がある。チームのなかでベストな選手がプレーし、グループには100%の力を出し尽くすことを求められる。そこには内部における競争があり、この競争が自動的にモチベーションを生む。
日本や韓国のような国では、モチベーションを作り出す必要がある。日本がベトナムと対戦するとき、あるいは韓国がヨルダンと対戦するとき、そこにモチベーションは存在しない。何故ならモチベーションは難しい相手と対戦する際に生じるものであり、結果が確実ではない戦いの際に生じるものだからだ。
勝利への意欲、チームへの献身を恣意的に作り出すことはできるが、日本がベトナムと対戦する際の唯一の懸念が、この献身だ。果たして選手は、100%の力を試合で発揮するのか。いわゆる小国と対戦するとき、大国の側にはまず負けないという余裕がある。だからこそ監督のチーム内部に対するマネジメントが、チームとしてのチャレンジを作り出すためにとても重要になる」
その戦略は、“アジアカップまでは”機能していた
――森保もドーハでは、選手の集中力とモチベーションを高めることの難しさを漏らしていたようです。