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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「不気味さもあって慎重に…」井上尚弥は“苦戦”したのか? 元世界王者・飯田覚士が分析「一度目のダウン後もタパレスの目は死んでいなかった」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/12/30 17:01
スーパーバンタム級王者のフルトンに8回TKOで完勝をおさめた井上尚弥。その強さの秘密を元世界王者の飯田覚士が徹底解剖する
「タパレス選手が読み取らせないようにうまくやっていました。何ごとも一辺倒にならず、両手のガードを上げて前に行ったり、L字にしたり、頭の位置を変えたり、いろんなパターンを見せるというのは相当(作戦として)練ってきたとは思います。そればかりではなく、たとえばジャブにしても実際はもっと伸びるはずなのに、距離を測らせないために射程距離をわざと短く見せるとか混ぜてくる。もちろん挑戦者で敵地に来ているので、行かなきゃいけないっていう気持ちで2ラウンドから切り替えてきました。
と同時に尚弥選手のパンチを受け止めてみて、自分なりに(情報を)ある程度把握できたと感じたところもあったはずです。というのも尚弥選手がパンチを打ち出すと同時に後ろに下がり始める、その反応が凄く良いなとは感じていました。これができると相打ちもやれるんです。その不気味さもあって尚弥選手は慎重にならざるを得なかった。無理やりにでも攻め込んで仕留めるってことをやらなかった。自分のボクシングをどれだけ出せるか。その一点においてタパレス選手のほうが先に軌道に乗った感はありました」
余裕のパフォーマンスにタパレスは一瞬、躊躇
情報の質と量。
相手の出方や反応で早々に正しい情報をインプットしたうえで攻略していくその処理速度が井上は異様に速い。これもまたモンスターと呼ばれるゆえんだ。タパレスとしては情報を組み込まれるのを極力遅らせ、その間に何とか突破口を見いだしていく作戦だったに違いない。飯田が言葉を続ける。
「3ラウンドもそうです。尚弥選手はまだ相手の動きを探っていて慎重にというところを崩していない。逆にタパレス選手は十分警戒しながらも練習してきたパターンを試していこうとしていました。このラウンドの序盤に、タパレス選手がコーナーに詰めた場面がありました。
尚弥選手はここで両手を広げて、余裕を見せるパフォーマンスをやるわけです。もしコーナーに誘い込んでいたらそんなことをやる必要はありません。尚弥選手がうまいのは、そういったところ。あれでタパレス選手は一瞬、躊躇しましたよね。ピンチをピンチに見せないし、結局は相手の思いどおりにはさせないわけですから。
タパレス選手はもっと自分のパンチが当たると思っただろうし、もっと攻勢を強めたかったはず。だけどそれ以上がなかなか難しい。ガードの上からパンチを受けて彼としても情報を集めつつ、もらったらヤバいなっていうのはあったと思います」
コンビネーションで最初のダウン
情報の読み取りに時間を掛ける井上に対し、効果的なパンチを当てられずとも作戦どおりに進めていくタパレス。3ラウンドまですべて井上がポイントを取っていたのは明白とはいえ、完全にペースを掌握していたとまでは言い切れないというのが飯田の見立てである。