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井上尚弥は「倒すことにこだわった?」タパレス戦10回KO劇…元世界王者・飯田覚士が唸った“軽いアッパー”「タパレスも“あれ”には驚いたはず」
posted2023/12/30 17:02
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
ダウン後のタパレスが怖い
一度のダウンによって、心が折れることはよくある。
井上尚弥の強打をここまで封じたとしても、こじ開けられて膝をキャンバスについてしまったら元も子もない。さらにギアを上げてくるであろう相手に対し、消極性がちょっとでも顔をのぞけばモンスターは迷わず畳みかけてくる。マーロン・タパレスもここまでかと思われた。だが飯田覚士は逆に5ラウンドのタパレスこそ怖いと感じたという。
「タパレスの試合は何度も見てきていますが、とにかく回復力が早い。(立ち上がって)ちょうどインターバルに入りましたし、予想どおり5ラウンドは吹っ切れたように攻勢を強めてきました。腹を括ったなと思いました。ブロックしてでも、パンチを合わせにいこうという覚悟も見えましたね」
打ち合い上等とばかりに下がらないで尚弥選手のパンチを受け止め、打ち返していく。井上の打ち終わりに合わせて右フックを狙ったり、隠していた右アッパーもここで繰り出したりしている。着弾できなくともナイトメアの不気味さは消えるどころか膨らんでいた。
7ラウンドにはタパレスのジャブが井上の顔面を突き上げるというシーンもあった。距離感を絶対的に支配する井上には珍しいと言えた。
「ダウンを奪われてからのタパレス選手はジャブもわざとゆっくり出したり、パターンをまた変えてきたなかで、ここぞっていうときだけ全力でジャブを伸ばしてきました。尚弥選手としても、まだ全部(手の内を)見ていないから厄介だなという思いは消えないままだったのではないでしょうか」
このラウンドはジャッジ2者がタパレスを支持し、次の8ラウンドも1者がタパレスのほうに「10」をつけた。しかし結局は嫌らしさを漂わせつつも、モンスターを上回る瞬間をつくり出せない。つまりはジャブを当てようとも、勝負のパンチを浴びせることはできない。9ラウンドは再び3者とも井上支持に落ち着いた。
タパレスも“軽いアッパー”には驚いたはず…
井上の駆け引きはさすがだった、と飯田はうなるように述べる。