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「藤井聡太八冠崩しの対抗策」に振り飛車はなれるか…「中終盤の押し合いで勝負できる」菅井竜也31歳に見る“AI評価値に現れない”可能性

posted2023/12/13 06:00

 
「藤井聡太八冠崩しの対抗策」に振り飛車はなれるか…「中終盤の押し合いで勝負できる」菅井竜也31歳に見る“AI評価値に現れない”可能性<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2022年度の叡王戦、藤井聡太−菅井竜也の対局。年明けの王将戦は同カードとなる

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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 2023年の将棋界は、八冠制覇を達成した「藤井聡太」一色に彩られた。その偉業は社会的にも大きな影響を与えている。今後の焦点は、藤井がタイトル戦でさらに制覇を続けるのか、その一角を崩す棋士は誰なのか、ということになる。

 2024年1月から始まる第73期王将戦七番勝負は、若き王者の藤井聡太王将(21)に対して、勝負強い菅井竜也八段(31)の挑戦で注目されている。菅井が武器にしている振り飛車、藤井の振り飛車対策、藤井と菅井の公式戦の対局、近年は苦戦している振り飛車の現状などについて、棋譜データベースの資料などを基にして田丸昇九段が解説する。

菅井は振り飛車の新工夫で15年の升田幸三賞を受賞

 11月22日に行われた王将戦リーグ最終日では、同じ4勝1敗の永瀬拓矢九段と菅井竜也八段の挑戦者争いとなった。両者の勝敗によっては、4勝2敗の羽生善治九段がプレーオフに進出する可能性もあった。永瀬九段と佐々木勇気八段の対局は、激闘の末に佐々木が勝った。菅井八段と近藤誠也七段の対局は、終盤で菅井は負け筋になったが、粘り強い指し方で逆転勝ちした。

 その結果、菅井八段が5勝1敗で1位となり、藤井聡太王将(21=竜王・名人・王位・王座・棋王・叡王・棋聖を合わせて八冠)への挑戦者に決まった。第73期王将戦七番勝負は2024年1月上旬から始まる。両者の公式戦の対戦成績は、藤井の9勝4敗となっている。

 菅井八段は2010年4月に17歳で棋士デビューして以来、振り飛車を武器にして戦ってきた。2015年の将棋大賞選考会では、振り飛車において中飛車や早石田など数々の新工夫を試みたことが評価され、革命的な将棋を創案した人に贈られる「升田幸三賞」を受賞した。

 近年は振り飛車対策の研究が進んでいて、振り飛車に逆風が吹いている状況である。中でも居飛車穴熊はかなり難敵だ。ある棋士は「終盤で良くて千日手」とぼやいていた。AI(人工知能)の形勢評価値も、振り飛車というだけでマイナス査定となる。

タイトル経験者の振り飛車党の近年成績を見てみる

 振り飛車を武器にしている3人のタイトル経験者で、2019年度から2023年度(同年12月11日時点)までの過去5年の公式戦の年間勝率を調べてみた。

 藤井猛九段は「藤井システム」と呼ばれる独創的な手法を駆使し、1998年から竜王戦で3連覇した。近年は、2019年度に.529で勝ち越した以外の4年は4割台~5割だった。久保利明九段は「さばきのアーティスト」と呼ばれ、タイトル獲得は棋王、王将で通算7期。近年は、2020年度に.574で勝ち越した以外の4年は、藤井猛と同じく4割台~5割だった。

 では、菅井八段はどうか?

【次ページ】 菅井の考える「振り飛車の良いところ」とは

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