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「藤井聡太八冠崩しの対抗策」に振り飛車はなれるか…「中終盤の押し合いで勝負できる」菅井竜也31歳に見る“AI評価値に現れない”可能性
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/13 06:00
2022年度の叡王戦、藤井聡太−菅井竜也の対局。年明けの王将戦は同カードとなる
近年の菅井の勝率を見ると――6割台が1年、5割台後半が2年で、2023年度(12月11日時点)は.709と絶好調である。
上記したように、タイトル経験者の振り飛車党は、菅井以外は苦戦しているのが現状だ。
ただ、振り飛車自体が衰退しているわけではない。戸辺誠七段、井出隼平五段(田丸の弟子)、西田拓也五段らは、振り飛車を用いて好成績を挙げている。また、居飛車党だった佐藤天彦九段、豊島将之九段は、最近は振り飛車をよく用いている。
つまり、振り飛車と居飛車の対抗は、新たな局面を迎えたといえる。
菅井の考える「振り飛車の良いところ」とは
菅井八段の2019年から2023年までの5年間における公式戦で、振り飛車の採用率と戦型を調べてみた。
振り飛車の平均採用率は8割以上で、2019年と2023年は9割台。振り飛車の分類は、中飛車、四間飛車、三間飛車、向かい飛車に分かれる。どの年も中飛車が多いが、2023年は三間飛車(22局)が中飛車(16局)を上回っている。それについては後述する。
菅井は七段時代の2017年に王位戦七番勝負で羽生王位に挑戦し、4勝1敗で破って初タイトルの王位を獲得した。振り飛車で毎局に見せた新工夫、中終盤の独特の間合いが羽生の指し手を乱したという。
菅井は後日に振り飛車について、次のように語った。
「定跡形ではない振り飛車が好きです。決まりきった形は研究が進んでいて、居飛車のペースになります。新しいものを作るんだ、という気持ちで工夫を凝らしています。優秀かどうかは別で、自分の力を発揮できる形を目指しています。中終盤の押し合いで勝負できるのが、振り飛車の良いところです」
菅井の新工夫は、伝説の棋士・阪田三吉が指した△3三金と上げた形の振り飛車、「ゴキゲン中飛車」と見せて飛車を振る「うっかり三間飛車」などがある。
ファンの期待に応えるような振り飛車を指したい
菅井の強さは中終盤の剛腕だ。それは攻めよりも受けの手に現われる。