「大阪選抜の投手として、その代の日本代表と試合をしたときに、岡田が先発して抑えたそうです。すると、途中で〈打たせてくれ〉と代表から泣きが入ったという話が（笑）。すごいボールを投げるピッチャーだったようです」

センバツに出場した際の北陽・岡田彰布（左）　©JIJI PRESS

　早稲田のユニフォームに子供の頃から憧れていた岡田は、野球部の練習会に参加した。大学1年生だった佐々木雅次が半世紀前を振り返る。

「岡田は夏の練習会に1人だけ遅れてきたんですよ。〈あれが岡田だ〉って言われて、フリーバッティングを見ました。すると、フェンスまで90メートルで高さが30メートルぐらいかな……10本中、8本ほどは超えたんです。それを見て〈なんだ、こいつ〉って思いました。さらに遠投は飛田穂洲さんと安部磯雄先生の銅像がある辺りまで届いた。125メートル以上は放りましたが、計測不能でした」

入学式前、まだ18歳の岡田が放った驚きの一撃

　当時監督の石山建一は練習会を見て、岡田の素質を一瞬で感じ取った。

「リストの使い方がうまくて飛距離が伸びる。これは将来、六大学を背負う選手になるとホレ込んじゃいましたね。当時、ホームラン記録は法政の田淵幸一の22本で、打率は谷沢健一（.360）。ベストナインは明治の高田（繁）の7回だった。〈コンバートして頑張れば、3つの記録を破れるよ〉と伝えたほどです」

　石山が素質を見抜いた練習会から半年後――島貫は岡田のバッティングを目の当たりにして驚くことになった。

「入学式前の3月、レギュラー組が関西遠征でいなくて、残った部員がバッティングをしていた。岡田が2年生投手から、バックスクリーン奥の場外に打ったんですよ。神宮でもセンターの中段ぐらいの距離です。それを高校3年生が打ったのが衝撃でした。4年間の在学中、あそこに打った選手は他に見たことがない。早稲田の伝説ですよ。こんな選手いるのか……って、笑っちゃうしかなかったです」

　50年弱が経っても首をかしげながら語るほど、当時18歳の岡田に大きな衝撃を受けたのだった。

強靭なリストを生かした打撃は、阪神入段前からすさまじかったようだ　©BUNGEISHUNJU

岡田はどんなことにもへこたれない男だと

　4月にリーグ戦が開幕し、岡田は早慶戦など数試合に出場した。その後、夏の合宿で石山の本格的な特訓が始まった。

　早稲田の軽井沢合宿はグラウンド、ネットなどを毎年、手作りで設営し旅館もほぼ、貸し切りで行われた。石山は120人の全部員を連れて1カ月間、鍛えこんだ。試合はせいぜい紅白戦のみで、とにかく練習漬けで「生涯で一番、苦しい練習が軽井沢」（島貫）だったそうだ。

　そこには都市対抗の予選で敗退したOBが臨時指導にやってくるのは毎年の恒例になっていて、石山は岡田を先輩たちに嬉々として紹介した。

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