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「これは書いてください」完敗2位なのに…青学大・原晋監督はなぜ笑った? 「強すぎる」箱根駅伝“ストップ・駒澤大”への秘策はあるか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2023/11/06 17:34
11月6日の全日本大学駅伝。大会MVPに選ばれた駒澤大・佐藤圭汰(2年)。2区を走り、区間記録を11秒更新した
「一度でも、『背中を見せる』ことだと思います。全日本でも中大の背中を見せて、揺さぶりをかけたかったんですが……。とにかく箱根では背中を見せられる展開に持ち込みたい。そうすれば、十分に勝負できると思っています」
箱根を見据えた陣容は固まりつつある。全日本を走った8人に加え、5区、6区の特殊区間は別路線で調整を進めている様子だ。
「10人はそろっていますし、11人目からの選手たちのレベルアップによって、分厚い層が構築できるはずです。吉居兄弟、中野、溜池のうち誰かひとりでも復路に回せることになれば……中央としては面白いレースをお見せできると思います」
往路の4区までに中央の背中を見せ、山でも対等に渡り合うのが藤原監督のプランだ。背中を見せるための鍵はーーもちろん、吉居大和である。吉居の復調を待ちたい。
【3】青学大・原監督「他力本願! 嘘、嘘(笑)」
前田監督は潔く結果を受け止め、藤原監督は悔しさを抑えきれない表情だったが、青山学院の原監督だけは明るい表情だった。
「『STOP! 駒澤!』の秘策? 他力本願! 嘘、嘘、それは冗談、冗談。いやあ、箱根がちょっとは楽しみになってきました。ウチとしては、全日本でようやく“駅伝”が出来たんじゃないかな。流れがあったよね。1区の若林(宏樹・3年)は追いつかれはしたけれど、積極的に飛び出した。いいじゃないですか、若者らしくて。2区の黒田(朝日・2年)は、駒大の佐藤君とはわずか8秒差で十分に戦えることを証明してくれましたし、3区から6区まではブレーキもなく、上位でいい流れを作ってくれました」
そして最終8区では國學院、中央との競り合いのなかで、田中(悠登・3年)がラストのキレで2位をつかんだ。
「この2位は大きい! 自信になるし、チーム全体に勢いが出てきます」
原監督は11月の勢いをなにより大切にする。箱根に向けては黄金時代を築いたノウハウがあり、絶対的な自信を持っている。
「ウチは2019年度に出雲5位、全日本2位、箱根優勝という経験が一度あるんです。その流れに乗ってきたかもしれない。箱根の秘策というわけじゃないけど、箱根は『出だし』『2区』『山』の三要素でガラッと変わってくるんです」
「これは書いてください」
長年、青山学院を取材して感じるのは、優勝する時はチーム内15番手くらいまで、同格の実力を持っている選手がそろっている。つまり1区、2区、山対策の人材が豊富にいることなのだ。今年もそれに近づきつつある――その手ごたえを原監督は感じているようだ。
そして青山学院は、チームとして「なんらかのローポイント」、落ち込みを経験すると、その反発力によって信じられない力を発揮する年もある。見せ場を作れなかった出雲の6人から残ったのは3人だけで、新しいうねりを生み出しそうな気配がする。
最後に原監督は笑顔でこう付け加えた。