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「何やってんだよバカ野郎」あの石川祐希に異変が…“何も言えない空気”に放った痛烈なひと言「僕は言えますから」《男子バレーまだあったウラ話》 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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posted2023/10/10 11:01

「何やってんだよバカ野郎」あの石川祐希に異変が…“何も言えない空気”に放った痛烈なひと言「僕は言えますから」《男子バレーまだあったウラ話》<Number Web> photograph by FIVB

パリ五輪の出場権獲得に貢献したキャプテン石川祐希。初戦を終えた後は「自分に失望している」と本音を漏らすほど、“ズレ”に苦しんでいた

 アンダーカテゴリー日本代表の頃から互いをよく知る間柄。真面目でストイックな印象が強い石川を「バレー以外は大したことないヤツ」とイジるのも小野寺だ。どう触れるべきかと周囲が困惑したフィンランド戦の直後、ストレッチをするコートで石川のもとへ歩み寄り、顔に手を当てながら茶化した。

「『何やってんだよバカ野郎』って(笑)。みんな、なかなかあの状況では言えないだろうけど、僕は言えますから。彼(石川)がこのチームのエースでキャプテン、核であるのは間違いない。だから崩れるとああいう試合になるんですけど、彼だけのせいじゃない。それはみんなわかっているし、一人一人が反省している中で『大丈夫?』とかいうのも違う。だったらそのまま『何やってんだ』が一番しっくり来るかな、と思って言ったのはすごく覚えています。(石川は)すごいヤツだけど、すごくないことだって当然ありますから」

 そんな仲間がいたことで、石川は常に前を向くことができた。2戦目でエジプトにまさかの敗戦を喫しても石川はこう言い切った。

「調子は上がってくる。昨日よりも今日のほうが、よくなっているので大丈夫です」

 有言実行とばかりに、一日の休暇を挟んで臨んだチュニジア戦、トルコ戦ではストレートで快勝。試合を重ねる中で感覚を取り戻した石川もサーブやスパイクで存在感を示した。

少しずつ取り戻していった“感覚”

 調子が上向きになると、発する言葉にも余裕が生まれる。自身も「状態が上がってきた」と具体的に振り返る場面があった。

「(トルコ戦の)3セット目にレフトからクロスへ抜いたスパイクの感覚は悪くなかった。あとは2セット目に点差が縮められた場面でライトからのフェイント。苦しい状態でも今まで(の2戦)は打ちに行っていたけれど、ああやって楽に1点が取れるようになると、いつも通りだと思える。今はまだ意識的にそういうプレーをしていますけど、無意識にどんどん出てくるようになればいいなと思いますね」

 最初の2戦は共に、2セットまでを難なく先取しながら3セット目に崩れ、しかも途中出場の選手に対応できなかったことが苦戦の一因だった。だが、石川が軽やかに振り返ったトルコ戦では、自ら第3セットの1点目を奪った。しかも相手が流れを変えようと投入したオポジットを“1枚ブロック”で完璧に止めた。悪いイメージを払拭する一本か?と問うと、また少し笑み浮かべて言った。

「相手が、というよりも、今日のブロックは(アメリカ代表のトリー・)デファルコを意識していたんです(笑)。いつもだったら煽りに行くんですけど、試合前にトルコとアメリカの映像を見て、デファルコのブロック、いいなぁと思って。たまたま更衣室で小野寺も『デファルコが』と話していたので、『デファルコ、ブロックいいよね。今日はデファルコを意識して行くわ』って。実際試合中も、デファルコ、デファルコ、って言いながら跳んでいました(笑)」

 気持ちに余裕が生まれ、プレーの感覚も、ここぞという時の決定力も取り戻した石川が、最たる形で本来の力を発揮したのが五輪出場を決めたスロベニア戦だ。

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