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「何やってんだよバカ野郎」あの石川祐希に異変が…“何も言えない空気”に放った痛烈なひと言「僕は言えますから」《男子バレーまだあったウラ話》
posted2023/10/10 11:01
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
FIVB
石川祐希は、最後まで勝利を求め続けた。
1万660名の大観衆が駆けつけたパリ五輪予選・最終日のアメリカ戦。互いに前夜のうちに五輪出場権を獲得していたこともあり、日本代表フィリップ・ブラン監督は山内晶大を除き、この試合がスタメン初出場の選手ばかりをコートに並べた。ミドルブロッカーに至っては、負傷の高橋健太郎に代わって7日のスロベニア後に急遽、登録変更されたエバデダン・ラリーが名を連ねた。
出場機会が限られていた選手たちにとっては、経験を積む場、という見方もできる。だが、全員が日本代表であることに変わりはなく、ここまで共に戦い、共に五輪出場権を獲得したメンバーである。ましてや五輪に出場できるのは今回より2名も少ない、たったの12名。より熾烈な競争を勝ち抜かなければ「パリ」のコートに立つことはできない。
だからこそ、どんな状況でも勝ちに行く。キャプテンを務める石川は言葉で伝えるよりも、それを自らのプレーで見せつけた。
言葉よりもプレーで伝えた“1球の重み”
アメリカに1セット先取されて迎えた第2セット中盤、17対17の場面でセッターの山本龍に代わり石川が投入された。その直後だった。
アメリカのスパイクをリベロ小川智大が拾ったが、ボールはベンチの方へ。それを懸命に追いかけたのが石川だった。ボールがつながり、最後は富田将馬が決めて18対17。日本が1点リードを奪うと、続けて宮浦健人のサービスエースが決まる。会場のボルテージだけでなく、コート内の士気も一気に高まった。
何よりサービスエースを決めた宮浦のもとへ駆け寄り、得点した宮浦以上に吼えたのが石川だ。
「目標は達成しましたが、満員のお客さんがいる中でプレーができて、アメリカと対戦できる機会もそんなに多くない。もちろん、勝ちに行っていましたし、ああいう1球で勝ったり負けたりする世界。吼えたのは、今日戦ったメンバーには吼えて流れを持ってくるキャラクターがいなかったので、そこは僕が入って、雰囲気を少しでも持ってこようかなと。バレーボールは流れのスポーツなので、プレーに乗れるかどうかが勝敗を左右する。意識してやっていました」
勝つことの苦しさをこれ以上ないほどに知ったからこそ、貪欲に。たかが1球ではなく、常に大事な1球。雄弁に語るより、その姿で仲間たちに“大事なこと”を伝え続けてきた。