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「何やってんだよバカ野郎」あの石川祐希に異変が…“何も言えない空気”に放った痛烈なひと言「僕は言えますから」《男子バレーまだあったウラ話》
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2023/10/10 11:01
パリ五輪の出場権獲得に貢献したキャプテン石川祐希。初戦を終えた後は「自分に失望している」と本音を漏らすほど、“ズレ”に苦しんでいた
ストレートで勝利しなければ五輪出場が遠のく可能性もあった中、第1セット序盤はスロベニアに先行を許した。ブロックやサーブポイントで追い上げるも、なかなか点差が縮まらず。そんな嫌な空気を石川が一変させる。中盤、14対16からのプレーはまさに圧巻だった。
2枚揃ったブロックも物ともせず、空いたコースへ叩き込む。続けて相手の得点源を1枚ブロックで封じる。さらには強打だけでなく、相手コートのスペースを見て軟打で落とす。がむしゃらに、かつ冷静に。上がったトスはどんな形でも決めると言わんばかりのプレーで4連続得点。試合を動かす重要なポイントを逃さなかった。
チームを救い、勝利に導く姿。強く逞しいチームの柱。その強さを誰よりも理解するセッターの関田誠大が言う。
「トルコ戦が1つの山だと思っていたんです。そこでああいうプレーをしてくれたので、最後の3つ(セルビア、スロベニア、アメリカの3連戦)は絶対上がってくるだろうなと思っていたし、本人も『行ける、行く』と言っていた。だから僕も信じていました。正直、最初の頃はどうしたらいいか、どうしたらうまく決めてくれるのか、考えていたんです。でもそれは僕自身が考える役割、仕事の一部ですし、他を活かしきれなかったからでもある。(4連続でトスを上げた理由は?)やってくれるんで。何とかしてくれる、という思いもあったし、彼が決めるとチームが乗るし盛り上がるので託しました」
高橋藍のレシーブ、西田有志のトス
勝利に迫った第3セットでは、こんなシーンもあった。
6対4で日本がリード、サーブは高橋藍。切り返された相手の攻撃を高橋藍が拾うとリベロ山本智大がすぐにフォローに入る。再びスロベニアが切り返したボールをまたもや高橋が好レシーブで拾うと、今度は西田有志が反応して石川にトス。レフトから豪快に叩き込んだ一打が決まると、満員の観客、そして共に戦うベンチの仲間に向けて感情を爆発させた。全員で獲った1点、これこそが自分たちの力だ――そう証明するかのように右の拳を握り、叫んだ。
主将の姿にベンチも沸き立つ。最前列にいた富田は言う。
「試合中もずっと、今自分にできることはこれしかないと思って、ベンチから声を出して盛り上げていたんです。大歓声で、声が届いているかもわからなかったけど、祐希さんがああやってベンチの前まで来てくれて、僕らに向けて声を張り上げてくれた。その姿を見ただけで、一緒に戦っているとわかって、同じように自分たちも盛り上げてくれているんだ。チームの中心で引っ張る選手はこういう存在なんだ、って。僕にとってはものすごく大きな勉強になりました」
五輪出場を決めた直後、石川はコートインタビューで「目標を達成したのですごく嬉しい。最高のメンバーで、自分たちの強さを証明することができた」と声を詰まらせた。ようやくプレッシャーから解放された。見えぬ重圧と主将としての覚悟。すべてが報われた瞬間だった。
「僕は非常に満足しています」
理想通りには程遠い。それでも、目標達成のために諦めず戦い抜いた。初戦の姿など思い出すが難しくなるほど、最後は完璧な、皆が望む「これぞ石川」というパフォーマンスで五輪出場権をつかみとった。
有終の美を飾るべく臨んだアメリカ戦は勝って終わることこそできなかったが、試合後の記者会見に臨んだ石川の表情は晴れやかだった。
「オリンピックの切符を取るという目標は、しっかり達成できた。そこは自信を持って“強くなった”と言えると思っています。エジプトに負けたり課題が見える大会で、パリオリンピックに向けてチームを新しくつくっていきたいと思っていますが、ネーションズリーグ、アジア選手権、OQT(五輪予選)と非常に充実した1シーズンだった。皆さんに見ていただいて『日本、強いね』と感じてもらえた1シーズンだったと思っているので、僕は非常に満足しています」
“失望”しても逃げず、また1つ大きな壁を乗り越えた。その先にあるパリ五輪へと続く道を、また一歩ずつ、力強く歩み続けて行くはずだ。