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「何やってんだよバカ野郎」あの石川祐希に異変が…“何も言えない空気”に放った痛烈なひと言「僕は言えますから」《男子バレーまだあったウラ話》
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2023/10/10 11:01
パリ五輪の出場権獲得に貢献したキャプテン石川祐希。初戦を終えた後は「自分に失望している」と本音を漏らすほど、“ズレ”に苦しんでいた
石川にとって五輪予選は、2016年以来2度目。9日間で7試合を戦う。世界ランキングなどあてにならない。厳しい戦いになることは想定していたが、想像を遥かに上回る事態に見舞われた。
フィンランドとの初戦はフルセットまでもつれる辛勝。出鼻を挫かれた試合のミックスゾーンで取材に応じた石川は、自身を囲む記者の輪がとけると、それまでの険しい表情を崩して苦笑いを浮かべた。
「自分に失望してるんですよ」
この場面で、こう打てば絶対に決まる。確信を持って打った1本が、相手ブロックに当たる。ブロックを抜けたとしてもレシーバーに拾われる。石川に言わせれば、調子の良し悪しではなく、フィーリングのズレ。コンディションに細心の注意を払ってきたが、9月の沖縄合宿で腰を痛めたことで満足な練習もトレーニングもできていない。だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、最も重要な大会で思い通りのプレーができない自分へのもどかしさがあった。それが「失望」という言葉になって出た。
同時に、かつてない戸惑いも感じていた。
「決まらなくて“あれ?”っていう感じはありました。でもいつもだったら、試合をしている中のどこかで修正できるんです。腰のことで練習がろくにできなかったというのは事実としてありますけど、最後までフィーリングが違ったまま終わってしまう。こんなことは初めてでした」
コートで示してきた絶対的な存在感
バレーボールはコートに立つ6人ないし7人と、ベンチの選手、スタッフで助け合うチームスポーツだ。攻守のバランスや外からの助言、すべてがかみ合ってベストパフォーマンスにつながっていることは承知の上。それでもあえて言うならば、やはりこのチームの象徴は石川だ。
今シーズン、その存在感はさらに増していた。ネーションズリーグのファイナルラウンドやアジア選手権では、「負けたら終わり」という状況でも常に先頭に立ち、自ら流れを引き寄せるような一打を決めてきた。勝った後も敗れた後もチームの輪の中心には石川がいた。
本人ですら「初めて」という事態に、周囲の仲間たちも戸惑った。どう声をかければいいか。そもそも声をかけていいのか。そんな余計な遠慮や気遣いを、取っ払ったのが同い年の小野寺太志だった。