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「じつは暗黒時代も数十人飛び込んでいた」なぜ阪神ファンは道頓堀ダイブする? “異常だった”20年前5300人飛び込みでトラブル、逮捕者&死者まで
text by
鼠入昌史Masashi Soiri
photograph byMasashi Soiri
posted2023/09/23 11:04
筆者は優勝決定前に道頓堀、戎橋周辺を取材した
2002年、サッカーの日韓ワールドカップ。日本代表が母国開催で初めての決勝トーナメント進出を決めたあの大会では、期間中実に約2000人がダイブしている。大阪の若者たちが集まって浮かれて騒ぐようなイベントがあれば、だいたい何人かはダイブする。そのイベントの盛り上がりが高まれば高まるほど、飛び込む人が増える。そして、阪神タイガースの優勝は盛り上がりが最高潮に達するイベント、というわけだ。
ちなみに、ワールドカップ前年の2001年には近鉄バファローズがリーグ優勝し、そのときにもダイブした人がいる。何のイベントもない2002年1月にも、酒を飲んで盛り上がった人が飛び込んで水死するという痛ましいできごともあった。直近では2022年のハロウィンでも飛び込みがあった。年末年始のカウントダウンでも飛び込む。
20年前のトラブル、死者も
さらに、同じようなことはほかの地域でも起きている。1999年の中日のリーグ優勝では、名古屋の堀川への飛び込みが数十人。徳島の新町川は阿波踊りのたびに飛び込む人が現れるし、ダイエー・ソフトバンクの優勝の際には福岡県警も警戒を強めている。阪神ファンだけが川に飛び込むのが好き、ということではないのである(そういえば、巨人が優勝しても神田川ダイブなんて話は聞きません。たまにしか優勝しない、というのもダイブしたくなる理由なのでしょうか)。
ただ、夜を通して5000人以上が飛び込んだ阪神優勝はやはり別格だ。かに道楽のカニのオブジェが破壊されるなど、はしゃぎすぎて周囲に危害を加える事態もあった(前述の通り、逮捕者も出た)。その2003年には、優勝から数日後に飛び込んで(後ろから押されたという話もある)亡くなった人も出ている。ここまで来ると、さすがに放っておけない問題になった。
だから、2005年の優勝以降は橋の欄干に覆いをするなどの対策をして、飛び込みを少しでも防いでいる。大阪市長や阪神球団も飛び込みしないように訴えているし、道頓堀の商店街が飛び込み禁止を訴えるビデオを作ったりもしている。それでもやはり何人かは飛び込むし、序盤独走からまさかの失速でV逸の2008年も、悔し紛れなのか、飛び込んだ人がいた。
戎橋そのものは、2005年の優勝から2年後にかけ替えられている。橋から川沿いのとんぼりリバーウォークに下りるスロープが設けられるなど、5000人以上が飛び込んだ2003年とはだいぶ形を変えている。さらに、コロナ禍前からのインバウンドブームで、戎橋と道頓堀は日本有数の観光地にもなった。
◆◆◆
9月上旬に訪れたが、戎橋周辺は外国人で大賑わい。グリコのサインと同じポーズをして写真を撮る観光客、心斎橋筋の免税店で買い込んだものを抱えている外国人。数十人の団体もいるし、道頓堀川の遊覧船も外国人観光客でぎっしりである。
もちろん、日本人もたくさんいる。どちらかというと日本人は通り過ぎていくだけで、橋の上に滞留して写真撮影に興じているのは観光客。筆者ものんきに写真を撮っていたら、中国語で話しかけられた。いずれにしても、2003年に5000人以上が飛び込んだときと今では、ちょっと景色が変わっているのは間違いなさそうだ。