甲子園の風BACK NUMBER
「応援のせいなんて1%も思っていないですよ」仙台育英・須江航監督が振り返る“あの”甲子園決勝戦「慶応さんが普通に強かった。完敗です」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byJMPA
posted2023/09/17 11:07
甲子園の決勝で敗れた後、慶応高・森林貴彦監督のインタビューを拍手で聞く須江監督。試合後の潔い姿勢も称賛された
そんな慶応と決勝まで当たらなかったことも「今夏のラッキーのひとつ」だったという。
だが、決勝戦の試合開始間もなく1番の丸田湊斗の先頭打者本塁打が出たことで、須江の心の中が一気にざわついた。
「打たれてもいいとは思ったけれど、一番打たれたくないところでホームランを打たれた」と須江は振り返る。すると聖地がお祭り騒ぎのような大歓声に包まれた。ただでさえアルプスを超えて、ベンチ上まで観客が肩を組み「若き血」を大熱唱する“圧”のあるスタンドが目に入ってきた。ただ、敗因にあの大応援団が関わったとは全く思っていない。
「誰も応援のせいなんて1%も思っていない」
「よく慶応の応援に関してのことを聞かれましたけれど、選手たちも実際はそこまで影響はなかったと思いますよ。
試合が終わって選手に聞いたんですよ。応援はどうだったって。そうしたら“自分たちのアルプス以外の340度くらいは慶応の応援と思っていたので、そこまで気にしなかったです”と。確かに迫力はありましたけれど、それに飲まれたというのはないです。インタビューで、5回の左中間の落球の場面はお互いの声が聞こえなかったのでは、というのがありましたけれど、あの場面は冷静に判断できる打球だったので、プレーへの影響はなかった。誰も応援のせいとか1%も思っていないですよ」
8−2。思わぬ点差をつけられて2連覇の夢は潰えた。だが、試合後の須江の表情は最後まで清々しくも堂々としていた。
「慶応さんがやりたい野球をしていて、普通に強かった。完敗です。センバツで負けた相手に最後に勝つっていう慶応さんの物語通り。リベンジする相手に決勝まで当たらないというのも凄いです。僕らにはそこをひっくり返す本物の力がなかったですね。あと、地方大会から甲子園までこれだけエラーしているチームは優勝したことがないと思うので(宮城大会は5試合で9個、甲子園は6試合で11個)、ウチのディフェンスのレベルが低かったです」
一方で、守備に関しては実はチーム運営の流れが絡んでいた。
「難しいですよね。6月まであまりにも打てなくて、6月から(練習の中心を)打撃に振った(シフトした)んです。守備はもう乱れることはないというところまで6月に到達したと思って。そうしたら守備への意識がガクッと落ちちゃって」
そして須江らしい表現を交えてこう続けた。
「普通は逆なんですよ。僕がやってきた野球は、美味しいものは最後に食べる野球だから、ショートケーキのイチゴは最後……という感覚と同じで。例年は守備をとことんやって、もうちょっと打てたらいいねという感じで最後にバッティングをやるんです。それが今年は逆になっちゃって。でも、ディフェンスだけでガチガチに固めて甲子園で勝てたかと言われると分かりません。もし、そうしていたら(甲子園で2本塁打の)鈴木(拓斗)はベンチに入っていないと思います。履正社戦や神村学園戦は鈴木のホームランがなかったら負けていたでしょう。これはもう、結果でしか語れないですよね」
2連覇の期待がかかった今夏は強豪校ひしめくハードなトーナメントを勝ち上がり、2年連続で決勝に勝ち上がった。それだけでも十分偉業に値するが、昨夏から優勝、センバツはベスト8、今夏は準優勝と聖地では常に上位に進出し続けている。