甲子園の風BACK NUMBER
「応援のせいなんて1%も思っていないですよ」仙台育英・須江航監督が振り返る“あの”甲子園決勝戦「慶応さんが普通に強かった。完敗です」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byJMPA
posted2023/09/17 11:07
甲子園の決勝で敗れた後、慶応高・森林貴彦監督のインタビューを拍手で聞く須江監督。試合後の潔い姿勢も称賛された
「文字だと“コイツ何言っているんだ”って思われるかもしれないですけれど」と須江は前置きをして、こう続けた。
「本当の意味で今年の準優勝があったから東北の歴史が変わったと思いました。去年の初優勝を色々思う人はいますよね。くじ運が良かったとか、2回戦からで5試合だからとか。僕は監督に就任してから複数の投手を年間通して育成して、上に勝ち上がった時に1人でもフレッシュなピッチャーがいることをずっとテーマにやってきて、計算通りではあったんですけれど、去年はうまくいきすぎているところもありました。その翌年にどうなるのかな、というのはありましたが、僕にとってはこの2年間が1セットだったんです。この夏ある程度勝ち上がれなかったら、昨年の初優勝の重みや価値が半減すると思ったんです。
センバツの時点ではチームを上げきれなかったので(ベスト8が)精いっぱいでしたが、彼らに余計なものを背負わせたくないとも思ったので、2度目の初優勝ってずっと言ってきました。その年、その年とは言っていますが、見ている人間、関わる人間がある程度のものを残す必要があると思っていました」
その結果が準優勝なのだから大きな価値はある。今夏の甲子園から帰仙した際は、昨夏の甲子園優勝時よりも多くの宮城県民が仙台駅に詰めかけ、選手らを間近から祝福した。それだけ東北の人々の期待値は今年さらに上がり、今後もさらに熱を帯びた視線を集めそうだ。
甲子園後の新チームは…「のびしろしかない」
新チームは帰仙して3日後には秋の公式戦を迎えるというハードなスケジュールだった。地区大会を勝ち上がり県大会へ駒を進めたが、現時点では未知数な要素だらけだ。それでも須江の口からはポジティブな言葉しか出てこない。
「(サッカーの)本田圭佑じゃないけれど、のびしろしかないですね。去年の今頃に比べても、ワクワクしかしないチームなんです。まず、今回の準優勝と昨年の優勝に対する物事の捉え方が抜群にいいです。(新チームの選手は)過去のこととして完全に決別できているんですよ。スタンドにいただけの選手もいますけれど、1年夏に優勝して2年夏に準優勝できた。自信になる、悔しさになる部分はあっても、自分たちは自分たちという距離感をちゃんと持っています。今のチームは(スローガンを)“下剋上”って言っていますからね。かと言って卑屈にもなっていないし、頭でっかちにもなっていませんから」
饒舌に現状を語った上で、須江はやや自虐気味にこう結ぶ。
「ただ、新チームは甲子園の決勝に辿り着くような、そんな凄いチームじゃないのは確かです。でも彼らの姿を見ていると、朝起きてグラウンドに行くのがワクワクしますし、奇跡の奇跡の……奇跡の出来事が起きるのでは、と眠りにつけるんです」
グラウンドのホワイトボードに掲げられた「ONE TEAM〜下剋上〜」という新チームの選手達が掲げた文字が、颯爽と動き回る選手たちを静かに見守る。仙台育英のサクセスストーリーの第2章はもう始まっているんだよと言わんばかりに。